心配の理由
美来達は授業が終わりグループルームへ行き入り口で棒立ちになっていた。
グループルームの椅子には机の上に何かの入った箱を置いて頬杖をついているカクランが座っていたからだ。
「ん? 三人とも入らないのかな?」
「な、何でいるんだよ? 今日は体調不良で休みなんじゃねぇのかよ?」
レゲインはカクランに指を突きつけて聞く。
カクランはいつものように笑っている。
「そりやあ体調が治ったからここにいるんだよ?」
美来は箱の方に走り寄って中身を興味津々に覗いた。
その中には3というくぼみができた茶色の革のカバーのついた端末と真っ白な卵に7と書かれたピンが三つずつ入っていた。
「カクランこれは何?」
「あぁ、それは班のピンと生徒手帳だよ」
バムはピンを一つ取り眺める。
「班の番号によってデザインが三段階あるんだよ、卵は一番下の班だけどね。そのピンはどこでもいいから身につけておいて」
バムはバッテン型にフードと髪を留めているピン留めを中心にして梅の髪留めが付いている反対側のフードにピンを付けた。
もう一つピンをとるとレゲインのフードを外し前髪をそのピンで留めた。
「何すんだよ!」
「ほら、先生と同じ髪型になった」
レゲインはむすっとしてピンを外しシャツの襟の折り曲げてある上の方にピンを留めた。
美来は制服のヒラヒラした襟に斜めにピンをつける。
美来は少しわざとらしく感じたバムのからかい方を見て心配になった。
「バム、何かあったの?」
「えっ? うんん、何もないよ」
バム……カクランと違ってそういうの隠すの下手だなぁ、私でも分かっちゃうんだから。
カクランの方を見ると美来に微笑みかけていた、レゲインはいつもより不機嫌そうな顔をしている。
「バム……私、何かしちゃった? 何隠してるの?」
「美来ちゃん」
バムが何かを言いかけたときレゲインが手でそれを制した。
「俺らが嫌なら一班に入ればいーだろ? 別にお前の代わりに入れる奴ぐらいすぐ見つかるしよ」
「ふぇっ!? 何でゲレイン知ってるの!?」
「近くでシューネの奴らが話してたんだ、聞こえるに決まってんだろ」
バムはいつも以上に呆れた顔をして真剣な目をしているレゲインをじっと見てるうちに笑いがこみ上げてきて我慢できずお腹を押さえ笑いだした。
美来はそれを見てぽかんとしていたが、レゲインは引きつった呆れ顔をしていた。それを見たバムは笑いが止まらなくなった。
美来もレゲインの顔を覗き込んで笑いだした。
「な、何でんな人の顔見て笑いだすんだよ」
「ご、ごめんっはぁ……私別にこの班抜けるつもりないよ?」
「けどよ、俺や美来は……んっ」
レゲインはバムが人差し指を口の前まで持ってきたので少しのけぞった。
「ゲレインはどうでもいいし、美来ちゃんは私にとって居てくれないと困るの! そんな班抜けるわけないでしょ? それに楽しいし」
バムは手を離し腕を後ろで組んで嬉しそうに笑った。
美来はそれを見て少し安心した。
レゲインの事も私と同じように見てるように見えるのに。
その事を言おうとしたがさっきまで微笑ましいものを見る目で見守っていたカクランが美来の方を向き、にっこりしながら口の前に人差し指を持ってきて「言わないであげて」と合図をしていたので思いとどまった。
よく見るとカクランの上着に3という数字が載ったプレートが付いたネクタイピンが付いていた。
「カクラン、それって」
「ん? ああ、これ? 担任に配られるクラスのネクタイピンだよ、昔は強制的にネクタイしてたらしいから今もネクタイピンで通してるらしいよ」
プレートの色は一年二年三年四年以降で色がそれぞれ決まっていて、一年は赤色、二年は黄色、三年は青、四年以降は黒色で稀に三年で卒業しない生徒がいるらしい。
「そういえば、先生、アウラー先生が心配してたよ?」
「えっ、アウラーが?」
バムがそう切り出した瞬間カクランは真剣な表情に変わった。
美来はそれを見て首を傾げた。
あれっ? カクランいつも他人といるときは常にニコニコしてるのに珍しいな。
「バム、アウラーから何か聞いたのか? 僕のことについて」
「えっ……う、うんん、何も聞いてないよ」
「……そう」
バムは誤魔化すようにパソコンの方に向かい依頼を検索する。
レゲインはその様子を飴の包装を解きながら見ていた。
知らねぇのは美来だけか……さて、俺はどうするかな。このまま学校に残るか、退学するか、問題を解決するか。
馬鹿だな、前なら俺はこんな問題、放っておくか逃げるかだったのによ。ま、選択肢からは消えてねぇけど。




