知られている理由
「美来、どうかしたのかしら? ぼーっとして」
いつものようにソテがつっかかってくる。
美来はクッキーを食べている途中だと思い出し持っていたクッキーを口に放り込みソテの方を見た。
「なによ?」
「……え? ソテが話しかけてきたんでしょ?」
なにを勘違いしたのか袋からクッキーを二、三個取り出し、ソテに差し出した。
ソテも渡されるがまま受け取ってしまった。
「あ、ありがとう……って! そうじゃないわよ! あなた、周りの人に嫌われているのが分からないの?」
美来は首を傾げ周りを見渡す。
目があうと睨んでくる者や不気味な笑みを向ける者が居たが前と特に変わらないのでソテに目線を戻した。
「特に変わらないよ? それに何で私に話しかけるの? 嫌いなんでしょ?」
「ええ、嫌いよ? 人間だからじゃないわよ」
「じゃあ人間が嫌いなわけじゃないんだ?」
「なに言ってるのよ、当たり前じゃない。私は人種的な差別は好きじゃないの、利用はするけれどね」
美来から渡されたクッキーを口に運ぶ。
このクッキー意外と美味しいわね……。
「これ、どこで手に入れたのかしら?」
「えっと……あれ? ごめん、忘れちゃった。あっソテそこにいると……」
「何よ?」
ソテが疑った目で美来を見た瞬間、
ーードンッ!
「ハローハロー、シマリスのシマちゃんだよー人間さん」
ソテは縞模様のナプキンをかぶった茶髪の女の子に蹴り飛ばされた。
「一週間に一人に話しかけるの、十一人目が君だよ? 私はレルよろしくね、君は?」
「美来だよ、よろしく」
シマちゃんってのは本名じゃないんだ。
ソテは女の子に怒鳴りかかるが全て無視されていた。
「美来ちゃんね、七班の班長だね」
「七班? 何のこと?」
「あちゃー、昨日休んでたのは君たちだったんだね」
レルは昨日話されたことについて美来に教えてくれた。
昨日、模擬戦で決まったクラスと班の番号が発表されたらしい。一年は五組あり、美来達のクラスは三組に決まっていた。強くもなく弱くもない中間の組だ。
美来達の班は九班の中の七班だ、これも強さで決まる。美来達の強さは一年の中で中の下といったところだろう。
レルは体を前に傾け人差し指を前に出す。
「でもね、九班って班員は一人で模擬戦には出てなかったらしいんだよ。だから強さに関係なく最下位に入ったんだって」
「一人? 三人組の班いくつもあるのに何で?」
「うん……ちなみに、その子は一度も授業に出席したことがないんだ。試験の時に見たはずなんだけど流石にそんなところ覚えてないし」
「名前はわからないの? カクランに聞いてみたら?」
「えっ!? もしかして君……あの話聞いてないの? 先生になんて話しかけれるはずないよ」
その一切受け付けない拒絶の仕方から美来は最近のカクランの様子を思い出した。
レルにその事を聞こうとした瞬間肩に手が置かれ後ろから話しかけられた。
「美来、バムが探してたけど……お前がこんな早くに教室に居るなんて珍しいな」
その声はレゲインだった。
驚いて振り返ると肩にかけていた鞄を下ろしかけて驚いている美来に驚いているように美来を見ていた。
「何だよ?」
「え、うんん、ちょっとびっくりしただけ」
レゲインが美来の隣の席に座るとソテが急いでその椅子を掴んだ。
「あ?」
「あ? じゃないわよ! ここ私がさっき取った席よ!」
「お前の私物なんて乗ってねぇからそんな痕跡はねぇな」
「なによ! そんなこと言っていいのかしら?」
ソテは胸を張って得意げに話しだす。
「私は三班なのよ? 七班のあなたが私に勝てるわけないじゃない」
レゲインはそんなソテを面倒くさそうに眠たそうに頬杖をついてフードの中から見ていた。
「それで?」
「それでってあなたねぇ……」
こいつ、三班になって調子乗ってんのか? 俺は別に七班で構わねぇけどな、俺が弱いわけじゃなく班が弱いだけだし。
「レゲイン、あなたそう言えば、三年の子に告白されたらしいわね……フフッ覚えておきなさいっ」
ソテは何かを企むような笑みを浮かべ別の席に座った。
「ねぇ、レゲイン」
「ん?」
「最近、カクランに何かあったのかな?」
「最近? お前覚えてねぇんじゃ……」
いや、ちげぇか、何回も見てんだっけ? 流石に軽く思い出すぐらいは見んでだろうな。
「狐だけじゃねぇだろ、お前も俺もバムから見れば様子がおかしいんだからよ」
「そっか……」
バムが来たら先に教室に来ちゃったこと謝らないと……。
レルは会話から弾き出されたので助走を付けて二人の間に走りこんできた。
「美来ちゃん! 先生のことについて何だけど気をつけて、あの人は……」
そこまで言いかけたところで、レゲインが後ろからレルのコールを剥ぎ取って話を中断させた。
「返してよ! このっ! コウモリめ! スープにしてやる!」
「憶測で取り返しのつかねぇ事を言うなよ?」
「何のこと? 私は別に周りで広まってる噂を教えようとしただけじゃないの!」
レゲインからコールを奪い返すとレルは頬を膨らませて自分の席に行き顔を伏せてしまった。
美来はそのやり取りを見て不思議に思う。
「あれ? レゲイン……コウモリって事知れてるね」
「あ? ……本当だな、フードかぶってるから見えてねぇって、あ、こないだ授業中にコウモリになったからだな」
レゲインと美来はしばらく顔を見合わせて黙っていた。
「……お前、想像源多いけど主人公向きじゃねぇよな」
「へっ!? いきなりなに?」
「すぐに出来事忘れるのに語り手にもなれねぇだろ」
レゲインはそれだけ言って話を切りやめた。
美来はいきなりディスられた感じがして頭の中がごちゃごちゃになっていた。




