殴られた理由
美来は一人、部屋で頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「私のせいで……また……」
瞼の裏に忘れていたはずの光景が映る。
存在感のある力の抜け横たわっている人の体、その下から赤い水たまりが広がってきている。足元までたどり着いた水たまりから逃れるように一歩下がった。
あまりのリアルさに美来はとっさに目を開けた。
「っ!? 今の……あの子の……」
美来はその光景を見て自分のせいで招いた結末だと確信した。
ドンッ! ドンッ!
「ゲレイン! 居るんでしょ」
中には一切声は聞こえてない、その為バムが外でドアを叩いていることを知らずレゲインはドアを開けしまった。
「!?」
ーーゴツッ!!
「ぐっ……」
レゲインは頭を殴られて痛みに頭を押さえて膝をつき悶絶している。
「ゲレイン!? 大丈夫?」
「大丈夫なわけあるかよっ……記憶喪失にする気か! 一瞬意識飛んだんだけど……」
触った感覚から多分たんこぶが出来ている。
ヤギの所行く用事できちまった……
「そ、そんな事より」
「そんな事ってなんだよ! 下手したら俺死んでたんだけど!?」
さすがのレゲインもバムを無視することはできず突っかかっっていった。
「ご、ごめんって……血出てない?」
「……お前は鈍器か」
レゲインは紙を殴られた所にあて「アイス」と唱え氷を出して冷やし仕方なくバムの話を聞くことにした。
男子寮のロビーにあるソファーに座る。
「んで、なんだよ」
「美来ちゃんが部屋に居ないの……」
「ん? それだけかよ?」
バムは首を振ってボロボロに破られたノートをレゲインに差し出す。
レゲインは首をかしげながら受け取り中身を見る。
「なんだよこれ? 美来の部屋にあったのか?」
「うん……紙くず散らかってたから最近破ったんだと思う」
「最近……?」
レゲインは美来がそんなことをするなどありえないとでも言いたそうな表情をしていた。ノートの中身はバムが何とか読めるように貼り付けたのだろう、テープで繋ぎとめられている。文字は美来のとは違う誰か別の者が書いたようだ。
「何で……だよ、お前、これ読んでから俺の所に来たのかよ!?」
バムはレゲインの目を見て頷いた。
レゲインは立ち上がる。
「何がしてぇ! 俺に、俺のせいで美来が居なくなったとでもいいてぇのか!?」
「責任ぐらい感じてるでしょ!? もし魔女なんかに会ったら美来ちゃんは……」
「っ……じゃあ俺の所に来ず美来捜しに行きゃあ良かっただろ、俺は知らねえからな」
レゲインは医療館に向かっっていってしまった。
何なんだよ……あれじゃあ俺の接し方のせいで美来が出てったみてぇじゃねーかよ!
俺はただ……巻き込まないように、その為に
「何でだよ!」
「うわっ!?」
「!……何でここに居るんだよ」
レゲインの大声にこそっと後ろをついてきていたカクランが驚いていた。
「かなり息荒いけど、そんな嫌な事あったのか? 珍しくフードもかぶらずに」
レゲインはカクランに言われてフードを慌ててかぶる。カクランを振り払おうと早歩きをする。
「あなたの友達はどんな気持ちだったかしら? 何度話しかけても忘れられてしまう……なんて相談できた感じも消えるでしょうね」
足元に紫の髪を垂らした魔女は美来に囁きかけた。
美来は足元をじっと見つめている、まるでそこに何かが倒れているのを見ているかのように。
「毎回毎回同じように同じ事聞かれて嫌にならない人なんていないじゃない」
「だって、忘れてたから……」
「そのせいでその子は逃げ道が無くなったのでしょう?」
美来の記憶を揺さぶるように何度も問いかける。
美来には自殺をしてしまった友達の死体が見えていた。今まで頭から消えてしまったようでずっと消えていなかった小学5年の頃の記憶、それが目の前に流れている。
美来を頼り必死にいじめられている事を相談する女の子、だが、何度話しても美来は忘れてしまう。
『私があなたに何度話しても忘れて……同じ事を聞いてきて、美来は人の傷をえぐりたいの!?』
ただ、その子に頼って欲しかった助けたかった何があったか知りたかったそのせいでその子は更に追い詰められてしまった。
そんな事すら美来は忘れてしまい、グラウンドで待ち合わせをして屋上の方から名前を呼ばれ見上げてしまった。
「な、何してるの!?」
『何も……覚えてないんだね』
そのままその子は美来の目の前に落ちて来た。
ピクリとも動かないそれどころか鉄の匂いがする赤い液が広がってきている。
「う……うそだよ……こんなの」
「その大切な忘れちゃいけない事を忘れていたあなたは一体何なのかしら?」
美来は膝をつくそのまま一点を見つめ続けていた。
そんな様子を陰から表情一つ変えずにルウブが見ていた。
フッ……鬼畜な奴だよな、魔女ってんのは誰にでも通用するものを揺さぶりやがって……




