留守
外へ出るとカクランは話しやすいように咳払いをする。
「ルネンって子、知ってる?」
美来達は黙ったままカクランの目を見ているだけだ。
「ケホッケホッ、コール付けてない子なんだけど、多分グループルームで薬の調合してると思うから」
カクランはしばらく考え込む。ルネンのいるグループルームの場所を忘れていたのだ。
「確か、東館の西校舎の二階の……端の方の教室だったかな? 五班はみんなかなり変わってるからルネンしか居ないはずだよ」
それだけ言うと軽く手を振り怠そうに寮の方へ歩いて行った。
美来はレゲインとバムを見て口を開く。
「ルネンって話した事あったよ?」
バムとレゲインはルネンと話した事をすっかり忘れていた。美来自身、見た目と名前を覚えているだけで何処でどう話したのかは覚えていなかった。
「誰かと関わる出来事か。模擬戦の時か旧校舎の時か授業中かだよな?」
「会えばわかるでしょ? 美来ちゃんも何処で会ったか覚えてなさそうだし」
カクランの言っていた校舎へ向かう。
理科室らしき教室が二部屋ほど続いた先に扉の内側に暗幕がかけられた部屋があった。重苦しい感じのする扉はこの校舎のこの階には他に無い。
「ここじゃね?」
「ノックするの? いるのかな?」
美来がレゲインに聞くとバムが前に出てノックをする。中から返事はなかったがしばらくして扉が開いた。
「……何?」
中から出てきたのはルネンではなくニット帽のようなコールを目元まで被ったショートヘアーの男子だった。背が高いせいもあり三人は黙り込む。
「レゲインって普段も背低いよね」
「うるせぇ、時々辛辣な事言うよな」
バムは二人がどうするのかと黙って美来とレゲインの方を見る。すると男子は部屋から出てきて扉を閉める。
「何? 何か用があってノックしたんでしょ? えっと、どちら様?」
レゲインは美来に耳打ちをする。
「こいつ、俺らの事知らねぇみてーだぞ?」
「私も知らないよ? 同じクラスなのに」
話にならないことに痺れを切らしたのか片足に重心を預けポケットに手を入れる。
「用が無いなら……」
「あります! あります!」
バムが慌てて手を挙げて立ち去ろうとするのを止める。
「ルネンって子いる?」
「……ルネンは今は。明日には戻ってくると思うけど。伝えておこうか?」
「うん、お願い。えと……ゲレインって子が明日行くからって」
それを聞いたレゲインはバムを睨みつけた。名前が間違っているうえに今の見た目では相手が覚えていたとしても分からない可能性があったからだ。
「あの、ルネンは人見知りだから異性と単独で会うのはストレスで体調崩しちゃうから」
「え、じゃあ、バムと美来って付け足しといて」
「ゲレインじゃなくてレゲインな!」
ニット帽の男子は頷くと去っていった。やることがなくなった三人は本館に渡ると立ち止まった。
「……俺ら今は三人で行動する必要ねぇよな? 俺、部屋戻りたいからまたな」
レゲインが一人寮の部屋へ向かった。小走りで寮へ向かうのを見ているとバムの携帯が鳴った。
「あ、ごめん。美来ちゃん。部活から呼び出し」
「へ? バムいつの間にそんなの入ったの?」
「入ってないけど……カメラ関係だからって。それとね! 空手の方で頼まれたりするんだけどさ、初めてだよ体術関係で人に頼まれるの」
バムの目がやけにキラキラと輝いている。楽しそうなバムに水を差すのも気が引けるので美来は生暖かい目で見送った。
やる事の無くなった美来は寮へ戻ろうと廊下を歩く。




