レゲインの父親
レゲインは船や馬車を経由して家からふた町ほど離れた町の宿に泊まっていた。コールの破損した部分に包帯を巻き、頭につけてコウモリの姿になる。耳に感じた痛みに耐えながらも自分に治癒魔法をかけた。痛みが引くと人の姿に戻りコールを確認する、コールは治り包帯には蝙蝠の時に着いた血が残っていた。
「会いたくねぇな……」
そうは思いながらも辺りが暗くなった時間帯に家の前に立っていた。
一日で学校から家までの距離移動できるのはこの世界だからだな……。
余計な事を考えながら扉を開けると玄関前で執事が頭を下げていた。
「お帰りなさいませ。レゲイン坊っちゃま」
「な、何で前で待ってんだよ? 不定期に帰ってきたのに」
「窓からお姿が見えましたので」
レゲインは目を逸らしギリギリと歯を噛み締めた。執事が微笑みながら荷物を寄越せと手を出すので仕方なく渡した。
「リビングの方でテラス様がお待ちです」
「なぁ、坊っちゃまって付けるの……やめてほしい」
「では、旦那様以上の給料で雇ってはどうですか?」
自分の呼び方を変えてもらえない事を聞き改めてバムを連れてこなくてよかったと思った。
執事が奥へ行くのを見た後、リビングの方へ向かった。部屋に入ると黒髪に黒目でスーツを着てレゲインと同じコールをネクタイの様に巻いたテラスと目が合った。ここへ座れという様に向かいの椅子を指す。
椅子に座ると何処で待機していたのかメイドが紅茶を持ってきた。
「レゲイン、久しぶりだな。そもそも話した事すら少なかったか」
テラスの声に気まずさを感じ嫌いな紅茶に砂糖を数個入れ口に運んだ。
「何か……用があって呼んだんだろ?」
「勿論。警備学校をやめろ、中学校に通っている最中だったじゃないか。お前は十六歳に見えて十三年しか生きてないんだぞ? それにこの家を継いでもらわなければならない、自由奔放にされては困る」
予想内の話だった為、レゲインは一切動じずに聞いていた。言うとおりにする気は毛頭無い。テラスはそれでも続ける。
「問題はそれだけでは無い。親戚じゅうが魔女との子だと知っているんだぞ、更に人間と関わっていたなど知られればどうなる事か。ドラゴンとも関わったらしいじゃないか」
その言葉にレゲインは思わず立ち上がった。
「何でだよ」
「友達なら中学でも作れるだろう? お前が自分からいかないからいけないんだ。それに人間などと関わればろくなことにならん」
「っ……今更保護者づらかよ。まともに会話すらしたことなかったくせに。家なんて知らねぇよ、継ぐ気なんて一切ねぇ! 俺は……っ!?」
突然視界が揺れ身体に力が入らなくなりレゲインはその場に倒れる。声も出ない。そのまま意識が遠のいていった。
身体が重い、寒い冷たい……何だこれ。
ぼんやりとした視界の中に教室で楽しそうに話す人たちが見えた。見た目の年齢はみんなバラバラだ。レゲインはまだ床に足のつかない高さの椅子に座ったまま足をぶらぶらさせ机に目を落とす。
「また、一人……」
そう呟いた瞬間机の上に目から溢れた雫が数滴落ちる。話しかけても逃げられた記憶が何度も浮かぶ。
「おいあいつ、五年になってまでまだ泣いてるぜ」
「仕方ないよ、見た目もまだ幼いし何せ魔女の子だもんね」
自分を嘲笑う声が聞こえた。
「ん……クシュンッ!」
目が覚めると冷たい石の床に寝転がっていた。身を起こし周りを見渡す。どうやらレゲインは家の地下牢に入れられている様だった。
起き上がろうとするが違和感があり身体が重く感じる。何とか立ち上がりおぼつかない足取りで設置された鏡の前に立つ。
「なっ!? 何だよこれ……」
しっかりと立った瞬間サイズの合わなくなったズボンなどはズレ落ちた。鏡には黒い髪と黒い目で自分とは違う目の形の八歳ぐらいの少年が立っていた。服は丈が膝まであり、袖は腕から手まで覆い隠してしまっていた。
「俺……じゃない?」
鏡に触れるがその手はいつもの手よりふた回りほど小さい。歩き出そうとすると床に落ちていたズボンと下着に足を引っ掛けてしまい転んだ。
「いっ……何でこんなことに」
扉の前へ行き鉄格子から外を覗こうとするが窓は遥か頭上にあり手を伸ばしても届きそうになかった。そこでレゲインは鉄格子を利用して扉ごと吹き飛ばそうとした。
「あれ……嘘だろ」
側にあった水の張った桶で試してみるも微動だにしない。
まさか、魔女の魔力が消えた?
一旦落ち着こうと机の上に置いてある水さしからコップに水を注ごうとするが椅子の上に上がるだけで一苦労だった。
床に敷かれた高そうな白い布を壁際まで持ってきて壁にもたれその上に膝を抱えて座った。




