ピンチに来る役のレゲイン
バムは少女と手を繋いで魔女のいる場所へ向かった。その魔女が待ち構えている場所へ行くと噴水前に立っている女性を少女が指で指し示した。
「!……あ、あれって、ゲレインのお母さん」
彼女はバムに気がつくと本当の様な嘘の優しそうな笑みを向け近づいてくる。バムは少女を背後に回して警戒する。
「持ってこれなかったのね。貴女はレゲインの友達かしら? ふふっ」
バムは後ずさりした。後ろで少女の悲鳴が聞こえ振り向くと、黒い剣に斬りかかられていた。
慌てて少女を引っ張り避けさせる。少女は軽い切傷を負っただけで済んだ。さらに振りかざされる剣を見たバムは少女を抱き抱えギリギリで避けた。
「庇わなくていいのに、その子はもう終わりなの」
魔女は目の前に来たバムを見下ろす。バムは着地と同時に魔女を蹴り上げ距離をとった。
「契約物を壊せば解約されるんでしょ!」
「契約物ねぇ、何処にあると思う? 貴重品はしまっておくのが常識でしょう?」
魔女は両手を広げ何も持っていないのを見せつける。
「ーー! そんな……」
どうしよう、この人にカメラ向けても砂鉄の粉で覆われたら効かないし。また別の能力考えないと、その機会があればだけど。
気がつくと周りを逃げられないように針で包囲されていた。
「っ!」
「ねぇ、一つだけ助ける方法教えてあげるわよ? その子の代わりに貴女が契約をすれば助けて……!!」
魔女は言い終わらないうちにすぐ上から降りてきた短剣を避けて後ろに下がった。
バムの前にはレゲインが立っている。
魔女はレゲインが操る砂鉄のロープに足を取られ後ろに引っ張られた。
「美来、今だ!」
ーーパンッ!
レゲインの合図で魔女の胸ら辺を横から何かが貫通した。魔女は無傷だが驚いた顔をしていた。
「まさか……そんな。ふふっ、レゲイン……そんな事まで記憶していたのね」
「教えたのはフィオリーだろ……」
レゲインがそう言った途端二発目の銃声が鳴り響き、魔女は頭を押さえてふらふらし始めた。
「っ……そう、何で私の名前を知ってるのかしら? 名前で呼びながらも殺せないのね」
レゲインの母、フィオリーは前のように姿を消した。
すると緊張が解けたのかレゲインは息を吐き座り込んだ。
「はぁ……何なんだよ」
バムがレゲインに驚きながらも近くに寄ると美来とディネが物陰から出てきた。
「ゲレイン……美来ちゃん見つけてわざわざ戻ってきたの?」
「……戻る気なんて無かったよ」
レゲインは不機嫌そうな目をしてバムと少女を見る。するとその横に美来が座りにっこりとする。
「レゲインはバムが捜そうとした魔女が誰か知ってて何も言わず置き去りにしたんだよ? 酷いよね」
レゲインは呆れたような目で美来を見た。
「美来がしつこいから来たんだよ、母さんは契約物を胸の間に隠してるからな、それで美来に銃で契約物だけを破壊するように待機させたんだ」
かなりムスッとした顔でそう話している分、美来に余程責められて説得させられたのだろう。
「ありがとう、美来ちゃん」
「だって、私、バムが居ないと何もできないんだよ?」
「へっ?」
「ほら、いつも私の予定管理してくれてるのバムだし。それで、レゲインに代わりにできるのかって言ったら渋々了承してくれたよ?」
バムも呆れたような目になり美来を見た後レゲインに視線を移した。“俺を見るなよ”とレゲインが小声で言うとバムはそれでも嬉しかったのか美来を見てにっこりと微笑んだ。
「ディネもね二回目打つのやったんだよ、その、やっぱり人を標的にすると私、怖くて」
ディネは耳当てを耳から外して首に掛ける。そして三人に褒める目で見られているのに気がつき目をそらして頬を赤らめた。
「何だこいつ……」
レゲインは呆れたようにディネを見たが、
「レゲイン、バム助けるの手伝ってくれてありがとう」
「は!? い、いや、俺は、お前に説得されただけなんじゃ……」
レゲインは美来から目をそらし確実に照れていた。
「君もじゃん」
「んっ……」
少女はバムから少し体を離し自分の首元を摩る。そこからは契約印が消えていた。
「えっと、お姉ちゃん。ありがとう」
「うん、怪我大丈夫かな?」
バムは少女の怪我の手当てをしてにっこり笑いかけ頭を撫でて別れた。
「お前って、子供の扱い慣れてるな……」
「もしかして、ゲレイン、子供が苦手で逃げた?」
「触れる事ねぇし知らねぇよ。何で慣れてるんだ?」
「私の妹思い出すからかな?」
こいつ、それで世話焼きなのか……女に対してだけ。
レゲインは世話をされている美来を見ると目があった。
「何?」
「別に」




