混ざり虹(1)
ゴッ!重い音がした。
ランプの光に照らされた人影がみじろいだ。
外は夜で、雨が降っていた。
太った男は、醜悪な目線をうずくまる相手に向けた。鳩尾を抑えてうずくまる男は、たった今蹴りを入れられたのだ。
「ふざけんじゃねーぞカスが…。足りねえって言ってんだよ。ああ!?」
「だが……人手ゲホッ!」
またしても蹴りが入る。
「口答えはいらねんだよぉ。作物を寄越せって言ってんだろ?ガキのメシに回す分がまだあんだろうが!」
太った男は口ではこう言いながら、その実何の利も無いと分かっていた。冒険者崩れのこの男に暴行して作物が育つのなら、今の何倍もの暴行を加えるだろう。だがやめる気はなかった。それは嫌がらせであり、憂さ晴らしだ。
「足が動かねえなんざ理由にならねえんだよ。明日からきっちり働けカスが!」
「…。」
男は何も言わず、ほんの少しだけ足を引きずりながら夜の雨へと抜け出した。その目には屈辱と疲れが見てとれた。
男は倒れるように帰宅する。妻と一人息子が出迎える。妻は心配そうに男の体を拭き、子供はあからさまに不機嫌であった。
「父ちゃん、また蹴られて来たんだな。」
「ああ。」
「カッコ悪い……カッコ悪いよ父ちゃん!」
「ああ。」
「こら!お父さんを悪く言わないの!」
「すまない。もう俺は寝る。」
男は足を引きずりながら奥へと消えていった。
「カッコ悪い……カッコ悪いよ父ちゃん………。」
夜の雨は何も語らず、ただしんしんと地を濡らすばかりであった。
時刻を同じくして夜の雨に打たれながら歩く者あり。
「お前も俺も今は同じ気持ちだよな…。」
「食う寝るところがあるって素晴らしいんだな…。」
「今寝たら体温奪われ続けてやばいよな……ちょっと前までは徹夜で歩くなんて当たり前だったのに…。」
「なあ、オリオン?」
それはボソボソとぼやきを上げながらも夜の草原を歩き続けた。




