迎合(3)
その男は眩しい笑顔を浮かべながら悠然と歩いて現れた。なんと上裸である。太陽の光が男の筋肉を照りつける。その鍛え上げられた肉体は彫刻のようであり、まさに鋼の肉体といった質感だ。
左腕には白いリングを肩から手首にかけて嵌め込んであり、いくつものリングはまるで1つの装甲のようである。その男は悠然と直進し、リーフが警告をしようと立ち上がる前にはもう町に踏み込んでいた。
即座にリーフの仕掛けた拘束用トラップが発動する。町の至るところには彼の杖によって刻まれた魔方陣が存在し、無許可に入り込んだ者の魔力に呼応して発動する仕組みだ。
地面の魔方陣が光を放つ!蔓による拘束の魔法である。常人なら10人は絡めとることができるであろうその拘束は、いとも簡単に破られた。男は歩いているだけだ。当たり前のように蔦が裂けたのだ。
リーフは危機感を感じて走り出す!男は快活な笑みを浮かべたまま歩みを止めぬ。第2のトラップが発動した。町の所々にはベニヤ板を被せたような地面が存在する。これを不振人物が踏むと落とし穴に落ちるのだ。
だが男は歩みを止めぬ。常人なら何が起こったか分からぬまま落ちるであろう穴の上を、歩きモーションのまま高速で通りすぎた。男は悠然と近づく。駆けつけたリーフと対峙して、男はニカッと笑った。
「小僧、力を見せよ…!」
――
綺麗に地平線を描いて広がる大陸には、それを見事真っ2つに分ける尋常ではない川幅の川が流れている。そこから丸4日ほど北西に歩いた大陸西側の北部、無限に広がる荒野にドーム状の建造物あり。
ここには非常に獰猛なモンスターのみが彷徨き、弱肉強食で言うところの弱肉はすっかり淘汰されてしまったように思われる。そんな厳しい大地の上になぜこんな建造物が?
西方から風のように走る何かが。そのしなやかな身のこなしは他のモンスターを寄せ付けぬまま走り抜ける。風はドームへと一直線に侵入した。
「なかなか久しいの。ヴァンよ。」
出迎えたのは、狼頭のヴァンがかつて師とした伝説の冒険者だ。禿げ上がった頭は薄暗いドームの中に入り込んできた幾分かの光を綺麗に反射している。その年期の入った顔つきとは裏腹に、体は驚くほど鍛え上げられており、片手で人を持ち上げることも可能であろう。
「はい、折り入ってお願いがあり、こうして参上しました。」
「相変わらず固いのう、お前は。ちったぁ人言語もうまくなったようじゃな。
頼みと言うのは………とうとう決心がついたのかの?」
「いえ、運営委員会には入りません。」
「…ではなんだ?」
老いた男の目付きが鋭くなる。
「これを。」
ヴァンが取り出したのは、たどたどしい字面で書かれ、綺麗に折り畳まれていたであろう文書であった。




