王都オースガード(3)
「まあ、これで実力は示せましたよね?」
周一は精一杯の虚勢をはった。もちろん、不意打ちを止めたのはフードの中で丸くなるオリオンだ。周一を囲むようにして集まっていた男達はにわかにざわめき立つ。いつの間にかカウンターから姿を消していた受付嬢が戻ってきて周一にカードを差し出した。
それは冒険者ギルドのIDカードであり、刻まれた文字は『D』。無事に報告が受理され、カーリスとマルクの口利きもあってランクアップしたのだ。周一は心の中でガッツポーズした。他の冒険者達は白けてぞろぞろとテーブルに移動し始める。
「あ、それからカーリスさんが、シューイチさんにこれを…。」
「なんすか?これ。」
「えっ!?これは魔法使いの階級証明書ですよ?」
受付嬢が差し出したのは小さく六芒星の魔方陣が描かれた青いカードだ。
「『シューイチはもう魔術師でよいぞ。』との伝言を頂いております。
知らないようですので説明しますと、魔術師として師から認められた者にはこのカードが送られることになっています。これは冒険者カードと同様に世界各国で力の証明になります。
魔法使いのカードは、認められた者しか魔方陣の魔法を発動できないようになっておりますので、無くさないようお気をつけください。」
「いやーありがとうございます!世間知らずなもんで。」
周一は笑ってごまかした。こういう常識を問われるような場面は未だに冷や汗をかく。ふぅと一息をつき、足元の壁に立て掛けた楽器を持ってフラフラと反対側のカウンターへ向かった。テーブルの冒険者どもは、周一に対し未だ興味の視線を向けたり、向けなかったりした。
周一はそのままバーのカウンターの椅子を引き、足元に楽器を立て掛けてから座る。
「フリーは何がありますか?」
「ああ!?タダでくれてやるわけねえだろ!」
「あっ、えーと。つまりアルコール抜きで。」
「ハン!酒も飲めねえぼっちゃんかい!」
「後で飲みますよ。」
周一は眼鏡を拭きつつ答える。その眼光は不必要なほどに鋭かった。
その目付きに一瞬飲まれた店主はすぐさま取り直し、水を入れたコップをダン!とカウンターに置いた。氷は無しだ。
「オリオン、頼む。」
周一はひと息で半分飲んだグラスをカウンターのテーブルに置いた。グラスの上から現れた氷がポチャポチャと音を立てて水の中に入っていく。店主は舌打ちした。
「やめろ。今は冒険者とはいえ私は聖騎士を勤めていた者の端くれだ。それ以上私を口説くならば女神の名の元に切り裂くぞ。」
「わ~ったよ姉ちゃん!柄から手を離してくれよおっかねぇ!」
「ふん…。」
周一の座る椅子と間を2つ開けて女騎士がカウンターの前に座った。恐らく特注であろう胸甲がテーブルに当たってガツンと音を立てる。店主はそそくさとそちらに向かった。
((おお~ナイスバデ~!っていうかそんなにテンプレな登場パターンがあるんだな。おじさん感心しちゃったよ。))
呑気なことを考えて水を飲む周一に女騎士を口説いていた男が近づく。
「おいにーちゃん!災難だったな!
ここだけの話、あいつらは最近ランクアップできなくて格下に当たってんだよ。」
"あいつら"とは、先ほど周一を囲んでいの一番に馬鹿にしてきた連中のことであろう。ノリの軽い男はなおも続ける。
「不意打ちを止めたのは見事だったぜぇ。あいつ、一瞬だけ本気で驚いた顔してやがった。へっへへ。
お、そいつは上モンだなぁ。弾けんのか?」
男の目線の先には周一のギターめいた楽器がある。周一は濁しつつも肯定した。
「へぇ!魔法もそこそこ使えてそのうえ吟遊詩人か!まるでカーリスじゃねえか!」
「師匠ですので。」
「はあ、なるほど!
おい!こいつはカーリスの弟子らしいぞ!」
冒険者の大半が唐突に声を張り上げた男の方を見る。やっと注目の中から抜け出した周一は、さらに注目を浴びてしまった。
((なんだよいきなり。あんたの方がよっぽど酷えじゃねえか。))
周一は心の中で呟いた。




