王都へと(2)
だだっ広い草原を歩く影は立ち止まった。目の前にはこんもりと盛り上がった地面。否、それは地面などではない!
それは地響きを1つ立てたあと、さらに高さを増した。ベチャベチャと不快な音を立てて肉塊がこぼれ落ちる。
巨大なワニだ。ただの巨大なワニではない。その醜態を見た誰もが分かるであろう、明らかにゾンビの類いだ。顔をもたげたワニの片目がこぼれ落ち、コロコロと顔を転がった後地面に落ちた。あろうことか巨大ワニはそれを口に含んで咀嚼した。
「うえー気持ち悪いな…。」
声の主は周一。今は数日前まで拠点としていた冒険者ギルドを目指して歩いている。目の前のワニは出掛けに相棒が仕留めたモンスターだ。相棒はフードの中からひょこっと顔を出している、オリオンと名付けられた幼虫だ。
「動きが鈍いけど1発がめちゃくちゃ重いんだよなコイツ。皮膚が腐ってるから防御力は下がってそうだけど……。」
うなじが大きく抉れたワニは、裂けた口から明らかに有害な黄色のガスを吐いている。ワニが先に動いた。巨体に見合わぬスピードだ!
「嘘だろお前!」
周一は寸でのところでワニの鉤爪を受け止めた!いつしか彼のローブは深緑から藍に変わり、腕は鎖でぐるぐる巻きになっている。鎖を巻いた腕で受け止めたのだ。
「体は軽くなったけど魔力は増えたのか?明らかに死ぬ前より強いじゃねえか…。」
ビキビキと嫌な音が周一の背後から聞こえる。前足を受け止めているため、ワニの頭は彼の背後だ。では何の音か。ワニが首の稼働域を大きくオーバーし、骨を飛び出させなならも周一の方へ振り向いたのだ!下顎が大きく膨らんだ後、ワニの口から腐乱臭のする黄色のガスが噴出した!
「なるほど…毒ブレスっぽいやつだな。」
周一は背から吹き抜けるブレスを何食わぬ顔で受けながら作戦を練り終えた。
「オリオン!」
周一のフードの奥、彼の首筋の辺りがぼんやりと光った。オリオンの氷魔法だ!周一の受け止めた右前足はたちまち凍りついて自由を失う!周一は振り向くと同時に両手の鎖を目一杯伸ばした!
鎖は黒紫の液体を滴らせながらワニの口内へ侵入しつつ、周一の手元の鎖から千切れた!遠隔操作だ。間もなく体内で暴れまわる鎖によって、肉体を内側から食い破られるだろう。それはさながら荒れ狂う蛇!
しばらくしてからワニの背中をぶち抜いて螺旋状に渦巻く2本の鎖が飛び出した!その2本の間には宝石のような水晶がある。魔水晶だ。鎖にまとわりつく黒紫の邪悪な液体がじわじわと侵食し、魔水晶は消えた。魔水晶が消えると同時にワニの体も霧散して消える。
「悪いけど俺達、毒無効なんだよね。」
周一が自分の体に巻いた鎖を指輪に戻すと、千切れて遠隔操作されていた鎖は黒い粒子となって指輪に吸い込まれていった。すでにローブは深緑に戻り、オリオンはフードの中で丸くなっている。
「ローブの色を瞬時に変えると変身ヒーローみたいでかっこよくないか?なあオリオン。
…まあそれはいいとして、俺の鎖にまとわりついてる魔法は何なんだろうな。なんか悪そうな見た目してるから闇魔法みたいなやつなのかな?」
深緑の影は再び歩き出す。ギルドはもうすぐだ。




