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鎖の勇者は旅をする  作者: ふらいD
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叢場研究室・乙(2)

「最後は耐久実験だ。いいか?」


オリオンは岩の上でうんうんと頷いた。周一は鎖を操作して自分の腹に巻き付ける。


「一応まだ仮説だけど、この鎖は持ち主である俺を傷つけないようにできてるみたいなんだ。


鎖を拳に巻き付けて殴ったら全然痛くなかったから気づいたんだけど……とりあえず他者からの攻撃だった場合はどうなるか。ってのを試したい。」


オリオンはまた2度頷く。


「最初は弱めに頼む。鎖を巻いたここに向かって軽くぶつかってみてくれ。」


オリオンは右前足を上げた。行くぞという合図だろう。理解が良くて助かる、と周一は思った。オリオンは上げた前足を下ろし、少し助走を付けてから飛んだ。緩やかな放物線を描いて周一の腹にコツンとぶつかる。


「オーケー。何かが当たった感じすらしなかったな。次はもう少し強めに頼む。」


オリオンは地面に落ちる直前に身を捻り、着地した直後に風魔法で飛び上がって岩の上に戻った。そしてまた前足を上げる。


「よしこい。」


今度のオリオンはしっかりと助走を付け、直線起動を描いて周一の腹に激突した。ゴツンと音が立ち、オリオンは反動で上手く空中回転し、岩の上に着地する。


「うん、なんか当たったような気がした。今のは素人が本気でボディーブローしたくらいか?いや、もうちょい強かったかな。プロボクサーくらいか。」


「最後に思いっきりぶつかってみてくれ。出し惜しみはしなくていい。」


オリオンは頷いて構えた。


「来いよオリオン!躊躇なんて捨ててかかってこい!」


オリオンの両目とその上の珠が複雑な点滅を始める。じりじりと姿勢を低くし、脚の爪が岩場に食い込む。大気の震える低周波が聞こえるようだ。


((ちょっと待て…思いきり来いとは言ったけどなんだそれ!?いつもみたいにピュンって飛んでくやつじゃ無えのかよ!


明らかに今までに無いほどのタメを感じる……。ヤバい…ヤバそうだ…。))


今や明らかにオリオンの様子はおかしい。背に埋め込まれたような2つの珠は爛々と輝き、オリオンはその6本の脚で深々と踏ん張っている。


一筋の風が彼らの間を通り抜けた。


直後!オリオンの姿が消える!元いた岩は、見えない何かに殴られたように大きく抉れていた。周一はオリオンの弾丸めいた突撃を腹に受け、体をくの字にして数メートルほど吹っ飛んだ。


「ハァーー…ハァーー…ハァゲホッ!ふぅ…ふぅ…ケッホッ!ああ~。やっと息できる……。お前強すぎ…。」


周一は草原に囲まれて仰向けに倒れこんでいる。鎖からオリオンが顔を上げた。その頭には斜めに亀裂が入っている。


「おい、オリオンどうした?大丈夫か?それ。」


オリオンの頭の斜め下半分がポロリと剥がれ落ちた。続いて上半分を振り落とす。背中から尻に欠けて次々と亀裂が入っていく。脱皮だ。


「あ、脱皮か。しばらく動かない方がいいな。」


仰向けの周一の視界には今や青い空と背の高い草しか存在しない。爽やかな風が吹き抜けた。


「そうだな。ちょっと話でもしよう。俺の話だ。お前にだけは話しておくよ。」


「前に闇に堕ちてるなんて言われたけど良く分かんねえし、マトモじゃないとも言われたけど俺としちゃマトモでいるつもりなんだよな。」


「だから、まあ、この世界に来る前の話だったり……俺の今までの人生みたいな…そんな下らない話でも聞いてくれよ。そういえばお前しか話せる奴が居ないんだよな。」


「そうだな。まずは俺の生まれたところや家族の話でもしようか。新しい殻が乾くまで時間はあるだろ?」


オリオンは頷いた。体を起こしていない周一からは見えなかったが、多分頷いたのであろう。

彼らを包むようにして草が風に揺れた。太陽が沈むまで、周一は自分の半生を語ったのだった。

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