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鎖の勇者は旅をする  作者: ふらいD
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叢場研究室・乙(1)

周一は草原に立っていた。もはやお馴染みの草原だ。森を見ていた期間の方が長いはずだが、景色に変化がない分草原の方が長い時間居るような錯覚に陥る。


この草原はずっと北まで続いているようで、所々に岩肌や土が露出しているところもあるにはあるが、基本的には全く変わらぬ景色が周囲を埋め尽くしていた。森が見えなくなってからの方角は完全にオリオンに頼っている。実際、星や天体の動きで方角を読んでいると言われる昆虫は存在するのだ。人間とコミュニケーションの取れる昆虫はこの世界にしか存在しないが。


「うーし、では実験タイムだ。いいかねオリオン君?」


いったい何処で覚えたのか、オリオンは右前足で敬礼して見せた。やる気十分だ。周一はオリオンの足の可動域にかなり気をとられながらも説明を続ける。


「実験と言えばこいつな訳だが…。」


周一の右手薬指にある指輪がパキンと音を立てて光の粒子となり、一瞬散らばってから収縮する。右の手元から生えるようにして鎖が生じた。今の長さは1メートル程度だ。


「その前にこいつの話だ。」


周一は鎖を器用に操作して右腕に巻き付けながら、着ていた深緑のローブを脱いだ。ローブの下は冒険者ギルドで購入できる安い麻の衣類だ。彼がこの世界に来たときの服は、今しがた岩に立て掛けた楽器の中に魔法で収納されている。


脱いだローブは、ちょうど首の下、背中の中心より上側の部分に魔方陣が描いてあるのだ。彼の楽器の裏蓋に描いてあるものとは見た目が違うが、魔方陣ならば何か魔法が発動するのだろう。だが全く見当がつかない。


「とりあえずやってみるか。自爆スイッチじゃないことを祈ろう。」


オリオンは周一の呟きを聞いてすっ飛んだ。そのままクルクルと回転しながら宙を進み、かなりの距離を開けて着地した。


周一はお構いなしに魔力を注ぎ込む。これにも慣れたものだ。魔方陣はうっすらと光り、ローブにはすぐさま変化が起きた。そのまま裏表が逆転したのだ。


「地味だな……。」


「裏表が変わった?というよりは色だけが入れ替わったのか。お、これは丁度良い!」


周一が数日前まで居た油の里に現れた2人の敵、彼らは恐らく北の魔王の使いだ。周一は彼らと戦う際にローブを裏返しにして正体を隠したわけだが、それはこれからも続けるつもりであった。


正体を隠すときはローブを裏返す。そのために着替え直す必要がなくなったのだ。


「地味だけどめっちゃ都合良いなこれ。ぼったくりじゃなかったのかもな…。」


オリオンはしれっと周一の前の岩場に戻ってきた。


「よし!じゃあ実験本番だ。」


周一は鎖をオリオンの上に放り投げた。硬いものがぶつかり合う音がして、オリオンは重そうにぐったりと岩にへばりついた。


「ちょっと持ち上げてみてくれ。」


オリオンは周一の言う通りに鎖を持ち上げようとするも、全く上がらない。それどころか、その小さな背に乗った鎖はピクリとも動かない。


だがここでオリオンが本気を出したのか、両目とその後ろの1対の珠が緑色に点滅を始めた。直後、オリオンを中心に風船が弾けるようにして風が吹き、一瞬だけ鎖が持ち上がった!


オリオンは疲れたとばかりにへたれ込み、周一に小石程度の小さな氷魔法をポンとぶつけた。


「お疲れ。悪かったな。」


周一が遠隔操作で鎖をどかしてやると、オリオンは鎖に頭突きを1発かまし、横に開く顎でガジガジと削り始めた。悔しかったのであろう。


「うーん……多分だけど、俺以外の生物にとってこの鎖ってのは相当重たく感じられるんじゃないかな…?


いや、逆か。本当はめちゃくちゃ重たいんだけど、俺だけは軽々扱うことができる。ってことなのか?」


オリオンが鎖を削った跡は、超自然の力によって徐々に修復されていく。周一は後ろに下がって歩きながら考えている。彼は5m程度遠ざかった所で歩みを止めた。


「遠隔操作の限界はこのくらいの距離か。案外短いなあ…。


よし、オリオン!次いくぞ次!」


オリオンは鎖の欠片をバリボリと口に含むと頷いて敬礼をした。

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