コントロールシステム(11)
次の朝、戦いの疲れも癒えぬままに周一は旅立とうとしていた。おばばとヘリアが見送りに来ている。ディーズとウォルもだ。周一は彼らをチラリと見た後におばばに問う。
「ノリで決めちゃったけど…こいつら大丈夫なんすか?」
「よい。歳を取ると目は見えなくなるが、代わりに見えるようになるものがある。そやつらは嘘は言っておらぬよ。今から裏切ってワシらを殺す気など無いじゃろう。
………ふふ…殺した分の倍は増やしてもらわんとの…。」
周一がディーズらに決めた処罰は、昼は集落のため強制労働し、夜は集落のため強制子作りだ。周一はガリガリのディーズを見て干からびないか心配になった。
「ディーズ。」
「はい!何でしょう?」
「偉そうなことを言うかもしれんが、殺しの罪は消えんぞ。」
「はい。命を懸けてこの村に奉仕します。槍が降れば盾に、作物がなければ肉になりましょう。これでも償いきれるはずはありませんが……。」
「記憶はどうだ?」
「まだぼんやりとして……北の魔王に会ったのは覚えてるんですがね…。」
「ふむ…。」
周一は未だ怪訝な目を向ける。彼が疑り深いのではない。集落の女性達の懐が深すぎるのだ。ましてやディーズは世間を騒がす北の魔王、その手下の可能性がある男なのだ。これは昨日、周一が処分を決めた後に得られた情報だ。
「シューイチよ。おぬしに言っておくべき事がある。」
「えっと、なんですか?」
周一はおばばが真剣な顔をしていることに気付き、姿勢をただした。
「おぬしは闇に堕ちている。」
一同がぎょっとして周一を見た。ウォルは固まったように動けず、ディーズはすぐさま顔面蒼白になった。ヘリアだけは、予期していたがやはりショックといった表情であった。ウォルの上に乗っているオリオンは首をかしげた。
「つまり?」
「今までワシらを殺さずに居たのが不思議なのはおぬしじゃ。今どき闇に堕ちた者などそうは居らぬ。まともでは無いのだ。
過去に大罪を犯し、今もなお魔人と呼ばれ続けるワシらでさえ、みな光の魔力を有しておる。」
周一はカーリスの言葉を思い出し、しばし思考した。闇に堕ちるきっかけになったであろう部分の記憶を失った彼だが、流石に察しがついたのだろうか。いつもの軽口も出てこない。
「ねえシューイチ~。」
重い空気をぶち破ってヘリアが口を開く。周一の腕をひっ掴み体を押し付け、こっそりと差し出したその手には、右腕にはめていたはずの腕輪が。それは古代文字のような紋様が刻まれた灰白色の金属でできていた。
ここにきておばばの口があんぐりと開く。まさに呆れてものも言えないといった具合に。
「これ、お守りだから付けててね~?絶対外しちゃダメよ~?」
「お前は人の話を聞いとらんかったのか!」
おばばがヘリアに怒鳴った。怒鳴り声に若干ビビる周一がこの腕輪の意味を知るのはずっと先になるだろう。ともかくして、こうして油の里での3日間は終わった。
ウォルの上ではしゃいでいたオリオンが風魔法で飛び跳ね、周一のフードにおさまった。そして彼らは再び森へと歩き始める。登り始めた朝日がギラギラと油の川を照らし始めた。
彼らは長い影を落としながら光の薄い森へと歩いていく。周一は1度だけ振り返り、見送る人々に手を振った。
彼らの旅はまだ終わらない。




