コントロールシステム(9)
周一は自分の違和感に気づいた。黒紫の何かモヤモヤとしたものが自分から出ているのだ。
回りに黒い靄が浮かび、時間がゆっくりと感じられる一瞬、周一は魔法の師事を仰いだカーリスの言葉を思い出した。
『心の内に眠る聖なる光を見るのじゃ。それが4種の形となって外界に語りかける。それが魔法じゃ。いかなる時も心の光を忘れてはならんぞ。』
((なるほど……心の光ってのは随分厨二な色の光なんだな…黒紫色なんて。今フヨフヨしてるのは多分、感情が昂って魔力がそのまま漏れたんだろう。
………。
……なんかこれ見てたら落ち着いてきたな。よし、もう犠牲は出させん!))
周一が覚悟を決めると同時、どす黒い霧に紫の光を散りばめたようなそれは、彼の身に纏う伝説の鎖にべったりと貼り付くようにして収縮した。鎖が悦びでうち悶えるかのように、ビタビタと黒い液体を足らして伸びる。
「うおお!」
周一は勢いよく左腕を突き出す!鎖はこれまでよりも速く、かつ冒涜的な動きで炎の中に飛び込んで敵に絡み付いた!周一は左腕を前に出したまま、右腕を引き絞る。ディーズの片腕はヘリアから直近の危険へと矛先を変更する!
周一は左腕の鎖を急速に縮めながら激流の如く駆け出す!彼のすぐ右を命を刈り取らんとするムチが通過した!だが彼はなおも走りを止めない!
「心頭滅却だぁ!」
周一はそのまま一斉砲火を受けるディーズとウォルの元へと、炎の円柱の中に突っ込んだ!
((飛びきりクールなやつをお見舞いしてやる!!))
周一が飛び上がる!構えた右腕には、膨大な長さの鎖が次々と巻き付いていく!
「らっ!!」
渾身の右ストレートがウォルの胸に突き刺さる!それは埋め込まれた水晶を狙っての一撃だ!
激しい打撃音の後、静寂が訪れる。
((飛びきりクールってのは流石にクサすぎたな……。))
周一の考えとはよそに、普段以上に禍々しい鎖から滴る黒い"何か"が拳を伝って水晶へと到達した。それは徐々に水晶の輝きを蝕み、侵食していく。その黒く半透明の"何か"は水晶を飲み込み、やがて食いつくして消えた。同時にディーズの首筋に埋め込まれた水晶も消える。
巨体の背中からずるりと生まれるようにしてディーズが転がり落ちた。ウォルも地響きを立ててうつ伏せに倒れる。炎で赤く染まっていた視界はいつしか晴れ、息も絶え絶えの女達が倒れた者の手当てを始めていた。その中には手遅れな者も多い。だが、勝ったのだ。
「あーマジ疲れた……。焦って鎖をフルで動かしちまった…。誰か家まで運ん……」
周一は仰向けに倒れた。かくして、戦いは幕を下ろしたのだ。




