コントロールシステム(8)
片膝をついて立ち上がったウォルという名の巨大な獣人が吼える!その胸の中央にはいびつな形の水晶めいた石が埋め込まれていた。その水晶がじわりと不快な輝きを放つ!
「詰めが甘かったな鎖野郎ォ!」
周一は鎖でがんじ絡めにして引きずっていたディーズの方を振り向く、爪がウォルの方まで伸びている!一体何が起こるというのか!
ウォルの体に突き刺さった爪は、ドクドクと脈打ち始める。そして……ディーズが縮んでいくではないか!あまりの事に周一は怯み、反応が遅れた。その間にもディーズは小さくなっていく!
周一がどうすれば良いか頭を回転させる内にディーズは小石ほどの大きさになり、やがて細く伸びた爪のみが残った。そしてその爪もウォルの背中に向かって吸い込まれるようにして消えた。だがまだ胸の宝石の怪しい輝きはおさまらぬ。
ここで炎の女達が取り直し、ウォルに猛攻を仕掛けた!ウォルはその太い腕を今一度振り回し初め、戦いが再開する。周一はフードを引っ張り直してから加勢に向かう。
戦いのさ中にウォルの背中はボコボコと膨らんでいく!そして肉が弾けるようにしてディーズの上半身が生えた!
「俺たちを本気にさせたなぁぁ!?このウォルとディーズに敵うわけねえんだよカスどもがぁ!!」
((うーん、何か引っ掛かるな……。何か怒られそうだ…。))
のんきなことを考えている周一が余裕を保てるのはこれが最後であった。
ウォルと合体したディーズの上半身から目にも止まらぬ早さで腕が振られ、女戦士2人が首を切られて倒れ込んだ。返す腕で1人を拘束し、残った腕で確実に仕留める。現れた一瞬にして3人もの魔人を葬ったのだ。
「熱くもねえなあ…?」
ディーズの腕は火傷一つ無い。周一の心に焦りが生まれる。おばばは何かを叫び、燃える女達が巨人の回りを取り囲んだ。囲んで一斉放火する算段だ!
「俺たちは体内に魔水晶を埋め込んだ改造人間だ!
コイツはほとんどの理性と引き換えにデカくて強い体を手に入れた!!そして俺は何も引き換えにすること無くこの両腕を手に入れた!!水晶に適合した俺たちは最強だァ!
てめえらはこの腕に傷1つ付けられないまま死ぬんだよ!」
敵は笑い声を上げながらその姿を覆い隠すほどの燃え盛る炎に包まれる!だが炎の中から腕が飛び出し、女戦士達は1人、また1人と拘束され、喉をかっ切られていく!彼女らの首からは火のついた血液が吹き出した。
((何だこれ…無茶だ……。))
女戦士達はわき目も振らず一斉砲火を続ける。実際、このまま囲んで続ければ彼女達の勝ちは揺るがないであろう。しかし戦士は次々と減っていく。囲めなくなれば敵の逃げ道ができてしまう。戦いの局面は、このままどちらが先に力尽きるかという状況であった。
((おい…誰か助けろよ。仲間が足元に転がってるままで良いのかよ……。))
飛び交う腕は最も防御の手薄なところを探し、闇雲に喉を狙い続ける。周一は動かない。周一は自分以外の人間が殺し合いの場にいる状況には慣れていないのだ。
((俺は何のためにここに居るんだ…?あんたらは仲間が倒れても気にしないのか?
一体どんな仕組みで感情制御したらそうなれる……?))
周一は鎖を伸ばし、ディーズの腕を拘束することで加勢ができるだろう。だが彼は何かに憑かれてしまったように動かない。ディーズの腕は遂に、最も捨て身で火力を注ぎ込むヘリアを見定め拘束にかかる。
((ああ、また女が死ぬのか。それも俺の抱いた女が。))
彼の脳裏に昨夜の光景が蘇る。それは本当に昨夜の光景だったであろうか。彼の封印されし記憶が蘇りかける。
((また……?違う。死んだのは俺だ…。))
ディーズの片腕はヘリアを拘束し、勢いをつけてもう片方の腕が迫る!周一の背からはぶすぶすと黒紫色の煤が湯気のように立ち始める。
((俺だ……そうだ!俺だ!!俺は何のために戦いに出たんだ!
…………落ち着け、集中しろ……俺だ、俺がやるんだ!))
へリアは助けを求め周一の方を振り向いた。そして、彼のフードの奥に潜む『闇』を見た。




