コントロールシステム(6)
「おいばーさん!最後の交渉に来たぜぇ!?早く出てこいよ!チンケな家が吹っ飛ぶぜ?ウォルが今にもぶっ壊しちまいそうだからなあ!」
下卑た大声が小さな集落に響き渡る。声の主は毛皮のコートを羽織った背の高い男だ。その隣には、伸長3メートルをゆうに超えるであろう獣人が荒い息をして立っている。肩幅が足幅の倍以上ありそうだ。
「カウントダウンだぁ!4!3!2!」
「待たれよ!」
長老、つまりおばばは慌てた様子で家から飛び出した。その顔は屈辱に歪んでいる。
「もうさぁ…選択肢はねえんだよ。これが最後の仕上げだからさあ…。大人しく軍門に下ってくれよな?」
「ぬうっ……ワシらは…!」
「いいのかあ?森の外にこの場所の話を漏らして?人の耳に入れば油の川はあっという間に使い潰されるだろうなぁ!さぞや人間どもの生活改善に役立つだろうよ!そうなりゃお前ら全員干からびて死ぬんだぜ!?
しかも人間達はお前らに容赦しねえ。何たってお前らは魔人だからなぁ?」
「じゃが!ワシら一族は人間の生活を脅かさぬと誓っておる!貴様らの軍に下って人を傷つけることはできんのじゃ!」
「なら一族滅亡ってことで良いんだな?んー…そうだな……干からびて死ぬのを待つより俺たちに殺されたほうが嬉しかろう?
ちょっと滅亡を早めてやるよ。なあウォル?」
獣人の大男は雄叫びを上げた。2人の外道は交渉を命じられてここまで来たが、その実暴れる口実が欲しいだけなのだ。
「腐れネズミめ…!」
おばばが歯軋りをするのと同時に、凄まじい速度でウォルに殴りかかる影あり!へリアだ!だが先ほどまでのへリアではない。全身が燃え盛る炎に包まれているのだ!彼女らが魔人と呼ばれる由縁である。
へリアは大男の顔面に突き刺さった右拳を引き抜くと同時に今度は左拳を突き出す!彼女が殴る度に爆ぜるような衝撃波が発生する!
「ここで一番強いワタシで無理だったら無理よぉ?みんな逃げる準備しててね?」
数少ない子どもやその母親達が避難の準備を整え、戦えるもの達が続々とその場に集う。へリアと同じく、みな燃え盛る女戦士たちだ。女戦士達が一斉に火魔法を放つと同時にへリアがウォルの顔面を蹴り跳ねる!
ウォルはその丸太を束ねたような腕を闇雲に振り回し、強引に魔法を相殺した!炎を纏う一族の、一斉火力をかき消すほどの恐るべき拳圧だ!
「ウォルは馬鹿だがてめえらを複数人相手できるほど強い。俺が居ないと見境なしに暴れちまうから困りもんだが……なあばーさん。お前も集落の連中も、あいつに引きちぎられて終わりだぜ。馬鹿な選択をしたもんだな!」
「おぬしはワシら炎の女達を舐めすぎではないか?」
おばばも全身に火をつけ、踵を返してウォルの方へと向かった。ここで目の前の男を殺すと大男の制御が失われ、かえって被害を生むかもしれないと判断したのだ。せめて戦えぬ者の避難が済むまではウォルを止めねばなるまい。ではこの目付きの悪い男の相手は?
「ここの女は上玉ばかりだから交渉決裂の場合は生かして持ち帰れなんて言われてたっけなあ?まあ多少は命令に従っとくか………
あん?何だてめえは?」
現れたそれは名乗らぬ。濃い藍色のローブを着たそれは、フードを目深に被り人相や表情が一切見えない。無言のまま、両袖からはジャラジャラと恐ろしい鎖がとぐろを巻くようにして伸びて来ている。
「俺が戦えねえと思ったら大間違いだぞカス!」
目付きの悪い男は吐き捨て、構えた。巨大な獣人と炎の女達との戦いを背景に、こちらでも戦いが始まろうとしていた。
最近文章がひどく汚い気がするのでいつか暇をみて修正します。とりあえず更新しますが読みづらくてすみません。




