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鎖の勇者は旅をする  作者: ふらいD
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序章:別の朝(5)

「ここが我々の村だ。」

案内役の人間が言った。存外早く着いたな。などと考えるより先に、その圧倒的な景色が飛び込んできた。


「おお…!」


思わず声が漏れる。村は想像よりもこじんまりとしており、巨大な2本の木の間を入り口としている。村のなかには縦穴式住居のように掘り下げて屋根を被せた家がポツポツとある。村の真ん中を1本の太い道が走り、ときたま枝分かれして家々に続いている。


何より驚くべきは村の全体を背の高い木が覆い、その枝葉が天然の屋根となっていることである。その所々にツタ等の植物でできた網のようなものがかかっているのが見受けられる。恐らくこの屋根の補修にあたるのであろう。これなら雨の日も村の内ならほとんど濡れることなく過ごせる。


頭上を覆う葉々のわりに村のなかは明るい。太陽の光が筋となり降り注いでいるだけではこうはならないだろう。道の両端に立てられた松明が光を確保しているのだ。


この村を闊歩する狼頭たちは村の外観と妙にマッチしていた。さらに、村の奥には恐竜の化石がチンケに見えるような大きさの骨が陣取っている。ネコ科、もしくはイヌ科の頭蓋骨であろうそれは、錆びた鎖にがんじがらめにされて村の奥に鎮座している。いかにもなファンタジー風景に周一は興奮を隠しきれなかった。空腹はそれ以上に隠しきれなかったが。



客人が来たということで村では宴の準備がすぐに始まった。よそ者をもてなす文化があって良かったと周一は心の中で呟いた。


「昨日、彼から生きた人間が見つかったと聞いてね。まだ生きているかもしれないと日が昇ってからの捜索が決まったんだ。いやあ、正直もう死んでしまっているかと思っていたよ。」


周一と話す男はミチトというらしい。村へ向かう道すがら自己紹介は済ませた。


ミチトの言う彼というのは、狼頭の中でもとりわけ屈強な男である。名前はよくわからない。彼の話によると、どうやらこの森は夜行性のモンスターが強く、夜は村の門を閉めて襲撃に備えるらしい。もっとも、昨晩の周一は夜の恐怖を身をもって体験したため説明はあまり不要だったが。


「宴の準備ができたようだ。先に長老にアイサツしに行こうね。」


「あ、はい。」

未だ村の風景に気をとられている周一は生返事を返し、ミチトについていく。長老は村の門から真っ直ぐ伸びる一番太い道の先に住んでいた。なんとなく家も豪華なようだ。


ミチトは長老宅の前でうなり声のような謎の言語を発した。数瞬後、長老宅の暖簾のような布が上がった。これはドアの代わりであろう。


「僕が通訳するから心配はいらないよ。さあ入ろう。」


頭が回っていない周一は、ここでようやく狼頭達が別の言語を使っていることに気づいた。このミチトという男がいなければ村に拾われても苦労していただろう。




ほどなくして長老との会合も済み、宴の真っ最中である。時刻は夜。キャンプファイアーのようなたき火を囲み、皆が村の中心で山の幸を食べる。これがこの村の宴会らしい。周一はあらかたの料理にがっつき終えて、何を発酵させたのかよく分からない酒をちびちびと飲んでいた。


そこに現れる村一番の戦士、長老と会った後に聞いたところ、彼の名はヴォーというらしい。相変わらず言語はうなり声のような何かで理解はできないが、何か思うところがあったのだろう、周一の横に座りどっかりと腰を下ろした。


「通訳が必要かい?」


ミチトがすぐさま駆けつける。彼はどうやら村一番の働き者として知られている。20年ほど前、周一と同じように森で倒れていたところをこの一族が助けたらしい。命を助けられたことに恩義を感じた彼は、すぐさま狼頭族の言葉を覚え、村の仕事を手伝うようになったのだとか。


ヴォーの深刻なうなり声を聞いた後、ミチトは酷く驚いた表情をする。


「ど、どうして黙っていたんだ!大変じゃないか!!」


ミチトが声を荒げる。一体急になんだというのか。

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