コントロールシステム(4)
「うっ……!」
森の開けた集落の西側は高さ4メートルほどの小さな崖壁があり、崖からは小さな滝が流れ落ちている。滝壷から数歩歩いたところで周一はうずくまっていた。彼は大自然の自動洗浄機能付き高性能トイレ、すなわち川に向かって吐いているところだ。
「はぁーつらい。何にも思い出せないけど女と寝るのはよした方が良さそうだ……。」
彼は先ほどより少し滝壺側に移動し、水をすくって口をゆすごうとした。しかし次の瞬間には口に入れた液体を勢いよく吐き出す。
「ってこれ油じゃん!!」
そう。川を流れるは油だ。ここは異世界であり、川に流れているのが水だけだとは限らないのだ。
「なんか油っこいところに来ちゃったな…。」
「そ~う?」
そんな周一の背後にヌルリと現れたのは、先程まで彼と同じ屋根の下に居たへリアだ。朝からやましいことを考えてしまいそうなその体は、やはりしっとりと湿り、ツルツルと光を反射している。
「あのさ…ここの人って油人的な奴なの?」
「な~に今さら言ってんのぉ。昨日さんざんヌルヌルしたじゃない?」
「記憶が曖昧なんだよな、なんか。でももうしねえぞ。」
「どーしてよぉ。」
「なんか罪悪感的な…悪いことをしているような……気がするんだよな。詳しくは思い出せないんだけど。」
顔を上げた周一の眼鏡は朝日の反射を受け、彼の表情は伺い知れない。それを見てへリアは何となく察した。しかし、集落の死活問題なのでこの男の誘惑を止める気は無いようだ。
「この村って今、男の人は1人もいないんだっけ?」
「そーよぉ!大ピンチなの!みんな言ってたでしょ?」
「うーん、ま、がんばれよ。
ところで、ここにはあまり人が来ないうえ男が居ないのは分かったけど、それならどうしてあんたら一族は森の外と交流しないの?へリアの強さなら森を抜けるくらい余裕でしょ。」
「あ~ら見抜かれてたのねぇ。まあ…その辺はおばば様に聞いてちょうだい?」
((見抜くも何も、そこそこ危険な旅をして来た俺とオリオンの背後を簡単にとった時点で超強いだろうよ…。))
へリアの言うおばば様とは、この一族で最も長生きの女性だ。昨日、周一が集落を訪れたのは夜だったため、日が昇ってから挨拶に向かうことがへリアとの間で決まったのだ。
「それじゃあそのおばば様とやらにご挨拶上がりますか。
オリオーン?」
オリオンがへリアの家の屋根からピョンと飛び下り、空中で軽く2回転してから周一のフードに収まった。
「ナイシュー。よし行くか。」
「はぁ~い。」
2人はゆるゆるとおばば様の家に歩き始めたのだった。




