コントロールシステム(3)
「うまいっすね!ここのメシ!全部油がすごいけど…。」
「そうでしょ~?住みたくなったでしょ~?」
「いや、それは申し訳ないですが無理です。」
「ええ~?」
周一は謎の女性に案内された村で少し遅い夕食をとっていた。彼が門を通った瞬間、村中から黄色い歓声が上がって非常に戸惑ったが、こうしてまともな飯にありつけただけでも良しとすることにした。
「ねぇ~いいでしょ?好き放題していいのよ?好き放題。」
「いや、だからっすね。」
「貴方いかにも軽そうな口ぶりじゃな~い?」
「ギャップ萌え狙ってんすよ。」
いや、良くないかもしれない。と彼は思いなおす。
この村の話は夕食前、色々な人から聞かされた。男が非常に少ない一族なのだ。橙色と言ってもよいほど血色の良い肌をした彼女らは常に男日照りであり、数年から数十年に1度訪れる人間が男だった場合は、あの手この手で何とかして懐柔しているようだった。周一もその誘惑を受けている真っ最中なのだ。
「ギャップ萌えってことは女の子のウケ狙ってるんでしょ~?ならいいじゃないのよ。」
「いや、冗談すよ。真面目な顔して軽口叩くのが俺のキャラなん……あ、それギャップなのか?」
「ほら!やっぱり男の子なんだから~女の子にモテたいのはみんな一緒でしょ?」
「ちが……あれ、合ってるのか?でも何か理由あって拒否してるんすよ。マジで。」
彼を誘惑するのは先ほど彼を見つけた女性だ。名前はへリアと言うらしい。一族の特徴である橙色の肌は、光が反射するほど艶がある。加えて、正に"脂がのっている"と言うべき抜群のスタイルを兼ね備えている。
((確かにスタイルはやべえ。巨乳でそれ以外は引き締まっててしかも尻もやべえ。太ももなんか高級なウインナーみたいだ……いやそれは失礼か。ていうか妙にテカテカしてない?ちょっと油ギッシュじゃない?))
彼女らの服装は粗末で、腰の当たりを帯で止めただけの麻服のような衣類だ。両腕には白い金属製の腕輪を付けている。何より胸元が大きく開いているため視線が自然と吸い寄せられてしまう。
周一は夕食を食べ終えて一息つく。へリアは今にもはち切れそうなミチミチの足を組み返しながら続ける。
「え~?じゃあどんな理由~?」
「そりゃあ…その……アレっすよ。」
((思い出せん!何でだっけ!もう女とそういう関係には絶対ならないと思ってたはずなんだけどな。理由が思い出せない……。))
彼の根底に眠る意識は、もう戻れぬ元の世界で愛した女のことを忘れることはできない。もっとも、彼の表層意識はその事を忘れているのだが。
「自分でも分かって無いんでしょ~?ほら私とシたら思い出すかもよぉ~?ねぇねぇ~?」
耳に砂糖が詰まりそうなくらいの甘ったるい声でへリアは続ける。
((くっそぉ!ここで誘惑に負けたらダメだ!何か分からんがダメだ!))
「あっれ~キミぜんぜん薬効いてこないのね。もういいや、うぇへへぇ……え~い!」
へリアは軽い口ぶりに対して明らかに不釣り合いな瞬発力を発揮し、あっという間に周一をベッドに押さえつけた。オリオンが壁にかかった周一のローブからやれやれといった感じで現れ、吹き抜けの窓からモゾモゾと外に出た。
「あっちょっこれは不可抗力だからノーカンだよね?ノーカンだよね?ああぁぁ!」
その夜オリオンは部屋に戻ることなく、家の屋根で星を見つめながら過ごすことになった。




