空の下(1)
草原のなかにポツンと存在する冒険者ギルド。そのすぐ横の草むらでは、二人の男が空に向かって正拳突きを放つ。
片方の男は背格好が大きく、髭面でいかにも豪快といった感じだ。もう片方はひょろ長い。後者である周一は、前者であるマルクに徒手空拳を教わっている最中だ。彼らが出会って1週間が経過していた。
そこから少し離れた草むらから、勢い良く何かが飛び出し、冒険者ギルドの屋根から吊るした的に次々と突き刺さる。それは氷だ。草にかくれて見えないが、そこには周一の相棒、オリオンがいる。彼もまた修行中といったところか。
彼らが何故、修行中なのか。それは明日、初めて冒険者として依頼を受けるからだ。周一が自ら修行を付けてくれないか頼んだところ、大男は笑顔で了承した。そして今日は修行の最終日だ。
「よし、まあこんなところだろう。1週間の付け焼き刃じゃあ全く身に付かねえからきっちり復習することだな!」
「ありがとうございます!いやーキツかった…。」
「体の作り込みが甘ーんだよ!」
マルクはガハハと笑い、ギルドに入っていった。酒を飲むためだ。
彼は冒険者ギルド自体を守る依頼を受けており、その場を離れられないため、依頼を受けて外に出ることは余りない。周一はマルクの相棒であるカーリスの元へ歩く。
「今日の授業は無しじゃ。生きて帰ってきたら教えてやろう。」
「そうなんすか。ま、すぐに終わらせて来ますよ。」
「ふむ…油断より恐ろしいものは数えるほどしかないぞ。旅の教訓じゃ。」
「肝に銘じておきますよ。」
カーリスは吟遊詩人であり、周一に楽器を分け与え、その上1週間魔法についての授業をしてきた。真っ当に生きて旅できる人間は少ないらしく、若者には惜しまず色々と教えているらしい。
「お陰で助かりました。土産があったらお二人に持って帰りますよ。」
「おうよ!久々にマトモなガキに会ったな!」
「そうじゃな。」
「あと俺そこまでガキじゃないですって。」
今や冒険者ギルドに居るのは彼ら3人と1匹だけだ。他の冒険者はめいめいの依頼を受けて旅立っている。そして周一もまた、明日旅立つ。
((依頼を受けて、達成して、戻る。今までやってきたことに目的がくっついただけだ。ある程度戦う術を身に付けたし無理なくこなせそうだな。
とはいえ油断はできねえ。明日受ける依頼は2人の口利きで昇格条件付きだし、まあがんばろう。))
周一は冒険者ギルドの2階にある仮宿でうずくまるようにして眠りに落ちた。




