ファンタジー(5)
リーフの家は司書の一家だ。巨大樹の根本には巨大なうろがあり、そこを改装して図書館の管理をしている。巨大樹図書館は世界に類を見ない大きさをもってこの町の重要な観光資源であり、知識の宝庫であった。
ナナの家はこの町の領主だ。莫大な蓄えをもってこの町の組織運営にあたっている。リーフの家とナナの家は隣であり、巨大樹の根本に並んでいる。
この2件の家が巨大樹の根本に建ち、町はそこを中心として扇形に発展している。炎のなかであっても巨大樹の根本は絶対に見失うことは無いのが救いだった。
3人はようやく家に到着した。ここまでオークの影は無かった。人影もなかったが。
「お父さん!お母さん!」
リーフは自分の家で叫ぶ。返事はない。ナナはヴァンが付き添い、自分の家に戻っている。リーフは図連絡通路を走り抜け、図書館を確認する。図書館だけは、辺りの火事がうそのように静まり返っていた。
「誰か!誰かいないのか!」
やはり返事はない。今度は親の仕事部屋に駆け込む。机には1枚の紙がおいてあった。
我が息子リーフよ、書物を頼む。
たった一文の手紙であった。
「うわああああああ!」
リーフは叫び声を上げる。それと同時に町の至るところの地面に亀裂が入り、水が吹き出した。
((完璧な人生だと思ってた…。一生この町で安全な暮らしができて…たまに圧倒的な力で問題解決して…可愛い女の子に囲まれて……。
当たり前だよな…そんなわけ無いんだ……。
今分かった……ファンタジーな世界だから何でも上手くいくと勝手に思ってたんだ…。ファンタジーな人生が送れるって。
人が生きるのにそれ相応の覚悟が必要なのは……この世界でも変わらないんだな。))
光輝く杖の先端が彼の魔法の行使を物語る。地面から這い出した水は、たちまち町の火を消すだろう。やがて魔力を使い果たした彼は、そのまま倒れるように身を横たえた。




