序章:別の朝(4)
目が覚める。相変わらず森の中であり、昨日から長い夢を見ているわけではないらしい。立ち上がろうとして木の枝の上だということを思い出す。落ちないようにツタで木の幹と体を縛ってあったが、よく考えると恐ろしい状態で寝ていたものだ。そのまま顔を上げる。木漏れ日の角度から察するに昼前らしい。
降りるためにもう一度下を覗いたところで、彼は後悔した。足が見える。数はどうか?足が12本だから6人であろう。仮に敵対したとなれば、瞬く間に殺されると周一は確信した。
「今度こそダメか…」
そして思わず声が漏れる。普通の人間に囲まれていたならこうは思わなかっただろう。話が通じる相手とは思えない。葉で遮られた視界の向こう側から覗くのは、刺々しい毛並みに3本の指、それに鋭い爪までも付いている。明らかに人間の足ではないのだ。
「驚いた!ほんとうに生きている!」
その声は6人の内の1人から発せられた。よく見ると1人だけ、草履のようなものを履いている足があるではないか!周一は声を聞き思わず下をもう一度覗き込む。言葉が通じている!そして彼は叫び返す。
「だ、誰か!話の通じる人がいるんですか!?」
「すまない!言いたいことはわかるが、とりあえず降りてきてもらっていいかな?このまま叫び合うのはとても話しづらい!それに…」
声が返ってくる。周一はほとんど警戒もせず即座に叫び返した。
「今降ります!」
ところで、彼は昨日1日で何度か学んだことがある。ピンチには兆候などなく、突然現れるということだ。急に後ろから追いかけられて身の危険を感じたり、そうと思ったら目の前に恐竜じみたモンスターが現れて死にかけたり。右も左も分からぬまま突然死の恐怖に怯える様は、現代の高速道路に原人が迷い込んだ様なものだろう。異世界も然り、待ってはくれないのだ。
そして、またしても下から叫び声が聞こえている。何だ?
周一は木を降りながら違和感に気がつく。振り向くと、そこには巨大な蜂のようなバケモノが居た。何故直前になるまでこんな大きな羽音に気がつかなかったのか。それはもちろん人に出会って気が抜けていたに他ならない。そのうえ昨日から食物を摂っておらず、おかげで頭は全く働いていなかった。加えて、まともな状態で睡眠をとっていない。彼の体は、彼の知らぬところでボロボロになっていたのだ。
周一が地上に飛び降りる判断をするよりも早く、一人が飛び出した。周一の見た毛むくじゃらの足は、彼ら、狼の頭を持つ狼頭の獣人である。がっしりとした体型は隙間なく鍛えられており、その筋肉のしなやかさは毛皮に包まれていてもわかる。
飛び出した獣人は凄まじい早さで近くの木々を蹴り渡り、空中の敵に肉薄する!そして間髪いれず槍で突き刺す!ほんの一瞬のできごとにより周一の命は救われた。そのまま彼は刺々しくも毛並みの揃ったたくましい腕に抱えられ、木の上から着地する。ひとまずの危機は去った。
やっぱ展開はやいですかね。




