ファンタジー(3)
リーフは自分の見ているものが信じられなかった。そしてそれはナナも同様であった。2人で燃える町を無言で見つめる。体は蝋で固められたように動かない。
「そんな…。」
生まれ変わり、順風満帆な人生を9年間も送った自分の町が燃えている。何度見ても何秒見ても、その事実は揺るがなかった。そして巨大な影が2人の前をちらつく。
巨体は2本足で歩行し、醜悪に太った腹をたゆませ近づいてくる。その顔には豚のような鼻と猪のような牙。オークだ。
2人は怯えた。これで終わりなのだと。リーフは自らの考えのもと、いつでも戦えるよう魔法の訓練をしてきた。しかし、いざ敵を目の前にして、相手にしようなどという考えは浮かんでこなかった。
((あ、足がすくんで動かない…。本を読んで魔法の勉強をしてきたのは俺強して女の子を守るためじゃなかったのかよ…!くそっ!動けよ!))
オークがその巨大な手を広げ、ナナを鷲掴みにしようとする。
「やだ…。」
ナナは小さな声で抵抗を表す。
リーフは動けない。
まさにそのときであった。遥か上空で巨大樹の枝の1本が不思議な光を放つ!そして光は、重力を無視した優雅な落下を見せる。
謎の光が降りてくる間、2人は呆気にとられて動きを止めた。それはオークも同じだった。町を焦がす炎でさえ、動きを止めて光を見つめているようであった。
光は形となり、リーフの手におさまる。それは杖の形を取った。
勇者の神器『芽生の杖』に選ばれたリーフは、杖の勇者となったのだ。
リーフは杖を地面に突き立て足に力を入れた。
((落ち着け…。なんか分かんないけど…この杖を持ってたら力が沸いてくる…。まずは、まずはナナを守るんだ!))
「うおおお!」
リーフは杖を相手に向け、魔力を込める。いつもは土魔法の練習ばかりしていたが、今回は練習してきた魔法ではない!それは彼にもよく分からないまま発動した。地面を割り、現れたのは荊のような細い木だ!木は瞬く間に成長し、オークの首を縛り上げる!オークはしばらくもがき苦しんだ後、気絶した。
「ナナ!家を見に行こう!お父さんやお母さんと避難するんだ!」
「うん…。うん…!」
半日前に賑わっていた町は、いまや炎の音しか聴こえない。2人の子供は炎のなかを、小さな望みを抱いて走る。
しばらく行ったところで、また別の音がした。誰かが戦っている!




