ザ・グッドライフ(2)
「あの、それ触っても良いですか?」
周一がカーリスの持つ楽器を指差す。
「若いのに目が高いのぅ。こいつは特注品じゃからそう簡単に貸してやるわけにはいかん。
だが…」
カーリスは楽器の裏側をごそごそとやると、明らかに物理法則を無視して何かを引っ張り出した。
「この予備の方だったら良いぞ。」
全く同じ楽器が出てきたのだ。一体どういうことなのか。周一はおずおずとそれを持ち、観察する。楽器には裏蓋のようなものがついているのが分かる。ここに何らかの魔法がかかっているのであろうか。
弦の数は5本で、上から下に向かってより細い弦が張られている。これなら分かる。彼は思い、自身が良く知る音に1本ずつ弦をチューニングする。手慣れたものだ。チューニングを終えると、記憶の片隅に残る曲をぽつりと歌い始めた。
それは物寂しくもあり、楽しげでもある彼のお気に入りで、昔の幸せな思い出を歌った曲であった。
周一が演奏を終えると、辺りは静まり返っていた。雨が地面を叩く音のみが響く。周一の真に迫る歌が、何らかの心傷を与えたのだ。
涙する冒険者も居た。その中にはマルクもいる。カーリスは何かを考えている。オリオンはいつしか皿を下ろし、首をかしげている。そしてしばらくの沈黙の後、カーリスが口を開いた。
「お前さんは吟遊詩人を目指すべきじゃ。」
「………マジすか。」
「歌に魔力が乗っておった。初めて触る楽器でここまでやるやつはおらん。自慢に思って良いぞ。」
周一は思考を走らせる。
((歌に魔力が乗る!?好きな歌でつい感情がこもっただけだと思うんだがなあ。
しかし、この世界では何でもすぐに魔力が関係してくるのか…。
それと初めて触る楽器じゃないんだよな。だってこれ1弦の切れたギターだし。))
幸せだった頃を歌う曲が、周一自身の真相心理の底から、自然と魔力を引き出したのだ。もっとも彼が理由を知ることはない。彼がそうであった頃の記憶は、彼自信の無意識によって封じ込められているからだ。
「お前さんにそいつをやろう。裏蓋の魔方陣に魔力を込めれば収納庫に繋がる。手荷物をそこに突っ込むと良い。」
((裏蓋にレリーフされた紋様は魔方陣だったのか…。なるほどな。))
「本当にもらって良いんですか?」
「かまわん。才ある若者を見つけるのもワシの、吟遊詩人としての目的の1つじゃった。」
「ありがとうございます!」
こうして周一はギター兼ナップザックの便利な装備を手に入れた。




