ザ・グッドライフ(1)
外は雨だ。ここは冒険者の集う冒険者ギルド。このギルドから1週間ほど歩いたところにはビットタウンという小さな町があるが、ここはそれよりもさらに栄えていない。草原のなかに突如建物が生えたような格好だ。
ビットタウンは北の魔王の手にかかり、生き延びた者が集まって興した町だった。このギルドはそれに近しいものだ。簡潔に言うと、町を興す予定地である。
手始めに冒険者ギルドを設置し、周りの環境を調査する。さらに冒険者をある程度集めることによって物流を良くすることができ、また、力ある冒険者によって戦う術を持たぬ者を守ることもできるようになる。
つまるところ、冒険者ギルドの設置は、人間の生活区域を広げるための第一段階というわけである。
そんなできたての冒険者ギルドには歴戦の戦士が一定数いる。新天地では、危険で新鮮度の高い依頼が受けられるため、その分報酬が弾むのだ。ギルドの無駄に広い酒場では、まだ数人ではあるが冒険者たちがいる。そこへドサリと倒れこむように一人の男が現れた。
「飯をください…。」
彼は叢場周一。鎖の勇者であり、最近Eランク冒険者になった魔法使い見習いだ。
しばらくした後、周一はごつい男どもとすっかり打ち解けていた。彼は料理を平らげながらここまでの経緯を語っていた。
「…まあ、そんなわけで、旅人としてビットタウンを出たんすよ。」
「ほほう!柔なナリしやがってやることはやってるってか!!罪作りな兄ちゃんじゃねえか!」
周一の話した内容で、隠すべき情報はもちろん伏せてある。オリオンは別の冒険者たちに気に入られ、机の上で皿回しを披露していた。オリオンとは周一の相棒であり、何かの幼虫だ。
「ホッホッ。では旅人シューイチの無事を祝ってワシが一興。」
軽装の老人がギターのような楽器を取り出し、歌い始める。
この世界で旅をするというのは、自殺行為に近い。大したインフラは無く、盗賊やモンスターがウロウロし、町と町の間は何もない。周一のように若くして無事に旅をしている人間は稀なのだ。そういうわけで老人は、旅人の歌を歌って祝う。
この世界の童話か何かなのだろうか。旅人は英雄として語られることが多いのだ。文化や娯楽の発達していないこの世界において、旅をする人間は知識と強靭さの象徴であるという。
楽器を演奏している老いた男の名はカーリス、周一の話し相手はマルクという。老人は吟遊詩人であり、各地を回って芸をし、暮らしている。その旅の護衛を務めるのが、このマルクという髭面の男だ。
周一はしばらくここに滞在するつもりであり、強い冒険者と話ができるのは都合が良かった。彼には情報が無いからだ。
外の雨の音とカーリスの弾く楽器の音色は不思議と合い、旅人の冒険譚を紡ぐ。周一はふと、老人の弾く珍妙な楽器に興味を示した。




