旅の始まり(3)
「おい起きろって。」
彼は声をかける。彼女が起きる。
「しゅーくんおはよー……。………。」
「あー、寝るな寝るな。二度寝はやめてくれ。」
「うーん…」
「よーし洗面所行くぞー。」
一組の男女がベッドから立ち上がり、ゆったりとした足取りで動き出す。
「俺はずっと前からこういう日を待ち望んでいたんだ。いいか?
遅くまで2人で寝て、起きて、ぐだぐだと昼飯を買いに行く。ついでに洋画なんかを借りて、家でなんとなーくそれを見る。」
「うん。」
彼女はぼけっとしながら歯を磨く。
「ようやくその夢が叶うわけだ。」
「うん。」
「素敵な同棲1日目にしよう。」
「もう2日じゃない?」
「昨日は夜だけだからノーカンでしょ。」
「そうなのか。」
他愛もない会話と、休日の昼の空気が二人の間を取り巻く。
時刻は飛んで夕方。
「なかなか面白かったな。」
「そだね。」
二人はそこまで大きくない家のテレビで映画を見終え、一息つく。彼は部屋を暗くするために閉じていたカーテンを再び開ける。
「でもさ、なんかああいうの、やだよね。誰かが死んで、感動。みたいなやつ。
私死んじゃったら…しゅーくん、どうする?」
「おいおい冗談でもそういうこと言うなよ。
お前とはまだまだ見たいものとか…行きたいところとか…沢山あるんだぞ。」
「そうだけどさ。もしだよ。もしそうなったら……後を追ってくるにしても、ちゃんと人生使いきってからにしなよ?」
「はいはい、お前もな。」
「うん。
ふふふ…」
「ん?どした?」
「幸せだね!」
「そうだな。」
彼は彼女の頬を撫でようとした。だが、それは叶わない。彼女は白闇の中へ遠ざかる。
彼は、周一は、目を覚ました。
粗末なベッドだ。彼の隣では昨日出会ったばかりの女が寝ている。彼はフラフラと歩き出し、女の家を出た。
そのまま糸の切れたタコのように町を歩く。日が昇るより少し前だ。そして彼は、だらりと地面にかがみ込んだ。
周一は嘔吐した。




