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鎖の勇者は旅をする  作者: ふらいD
33/71

旅の始まり(3)

「おい起きろって。」


彼は声をかける。彼女が起きる。


「しゅーくんおはよー……。………。」


「あー、寝るな寝るな。二度寝はやめてくれ。」


「うーん…」


「よーし洗面所行くぞー。」


一組の男女がベッドから立ち上がり、ゆったりとした足取りで動き出す。


「俺はずっと前からこういう日を待ち望んでいたんだ。いいか?


遅くまで2人で寝て、起きて、ぐだぐだと昼飯を買いに行く。ついでに洋画なんかを借りて、家でなんとなーくそれを見る。」


「うん。」


彼女はぼけっとしながら歯を磨く。


「ようやくその夢が叶うわけだ。」


「うん。」


「素敵な同棲1日目にしよう。」


「もう2日じゃない?」


「昨日は夜だけだからノーカンでしょ。」


「そうなのか。」


他愛もない会話と、休日の昼の空気が二人の間を取り巻く。



時刻は飛んで夕方。


「なかなか面白かったな。」


「そだね。」


二人はそこまで大きくない家のテレビで映画を見終え、一息つく。彼は部屋を暗くするために閉じていたカーテンを再び開ける。


「でもさ、なんかああいうの、やだよね。誰かが死んで、感動。みたいなやつ。


私死んじゃったら…しゅーくん、どうする?」


「おいおい冗談でもそういうこと言うなよ。


お前とはまだまだ見たいものとか…行きたいところとか…沢山あるんだぞ。」


「そうだけどさ。もしだよ。もしそうなったら……後を追ってくるにしても、ちゃんと人生使いきってからにしなよ?」


「はいはい、お前もな。」


「うん。



ふふふ…」


「ん?どした?」


「幸せだね!」


「そうだな。」


彼は彼女の頬を撫でようとした。だが、それは叶わない。彼女は白闇の中へ遠ざかる。






彼は、周一は、目を覚ました。


粗末なベッドだ。彼の隣では昨日出会ったばかりの女が寝ている。彼はフラフラと歩き出し、女の家を出た。


そのまま糸の切れたタコのように町を歩く。日が昇るより少し前だ。そして彼は、だらりと地面にかがみ込んだ。


周一は嘔吐した。

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