旅の始まり(2)
周一はマリーの話を黙って聞いた。内容を要約するとこうだ。
近年、世間を騒がしている北の魔王の先兵により、この地域を統治する王国の端々の村は焼き討ちにされることが多々あった。
2年前、マリーの住んでいた村も襲撃され、彼女は家も家族も恋人も失った。
彼女は密かに勉強していた魔法をもって冒険者となり、このビットタウンに腰を落ち着けることにした。
ビットタウンは魔王の手にかけられ、生き残った人々が再興を志して集まった町であり、彼女は町の発展と冒険者稼業に尽力していた。その矢先、魔法の才能を感じる若者を見つけていてもたっても居られなくなり、家に連れてきたということだった。
「あのー、マリーさん、俺25なんで、俺の方が1個歳上なんすよ。」
周一は話を聞き終えて、何かを言う前にお茶を濁した。彼なりに重い空気にならぬよう配慮した結果だ。
「えっ!?てっきり18かそこらだと…。子供扱いしてごめんなさいね。」
「いや、いいっすよ。それにしても、北の魔王ってのはとんだカスですね。
俺にできることがあれば言ってくださいよ。しばらくはこの町に居ようと思ってますし…。」
周一は家に厄介になり、夕飯を振る舞ってもらった礼に、食器を洗っているところだ。もちろんシンクなど無く、水洗いである。どうやら異世界における文明の発展はそこまでのようだ。
「なら……」
突然、マリーは周一に後ろから抱きつく。
「なら…この町から出ていかないで…。
こんな話をしたのあなたが初めて。あなたは死んだあの人に似てるの…。なんでも聞いてくれそうで、…それで、……」
周一はマリーに見えないのをいいことに思い切りしかめ面をしていた。
((陥落早すぎるだろ…
この世界の女は尻軽なのか?いや、死んだ人間を思うあまり見境が無くなっているのか?
それにしても短絡してる気がする…この世界ではこんなものなのか…?
何にせよ、どうにかしねえとな。ま、女を慰めるのは慣れてる。
……慣れてる…………?))
「落ち着いてくださいマリーさん。一度落ち着くべきだ。
ほら…」
周一は振り返り、マリーの顔を見る。顔を見て、解決方法が1つしかないことを彼は悟った。




