町へと(5)
おまたせしました!次回が実質の1話です!
血色の良い男たちの声に出迎えられ、周一は冒険者ギルドの建物に入った。床は土で、屋根があるだけのテントのような場所なので、建物と言うべきでは無いのかもしれない。
さすがに広い。カウンターの反対側では、いかにもといった連中が昼間から酒を飲んで騒いでいる。
((これだよ!これ!こういうのが異世界転生じゃないか!なんで俺は1ヶ月近く森の中だったんだ…!))
周一は無愛想な表情でカウンターに向かう。まずは情報収集だ。
「えっと、俺…ド田舎から出て来て、初めて大きな町に着いたんですけど…冒険者ってのは誰でもなれるものなんですか?よくわかんなくって…。」
「それでしたら…」
受付嬢が答えるより先に、カウンターの奥から現れた屈強な男がでかい声で答えた。
「おう!ボウズ!新入りか!!だったら奥の部屋に来い!!色々と説明があるんだよ!」
分かりやすくて大変よろしい。周一は思った。ギルドの冒険者たちも、いつのまにか周一を値踏みする視線を送っている。周一はそれを大して気にせず奥の部屋へと入った。そのまま男の向かいの椅子に座る。
((就活で面接には慣れてるぜ!どんとこい!
ん?そうか……。俺は以前、就活してたんだっけ?))
記憶が甦り脳内で混乱する周一に構うことなく、男が口を開いた。
「ようこそ!冒険者ギルドへ!ここは名前の通り冒険者の集う場所だ。
じゃあ冒険者とは何だという話になるが、そもそも冒険者ってのは俺の若い頃~~~」
数時間が経過した。周一はこれから最初のランクを決める試験だ。出し得る一番強い攻撃を、目の前のギルドマスターに叩き込むだけの簡単な試験である。
((あんな脳筋な見た目して話がクソ長えとは思わなかった…。ちょっと腹立つから思い切り魔法ぶちこんでやろう……。))
試験はギルドのすぐ前の通りで行われる。酒を飲んでいた冒険者たちがぞろぞろとギルドから見物している。
周一は水魔法を用意する。サッカーボール大の水の塊が周一の右手の前に現れる。ここからそれっぽく左の手を添えた。この動作に一切の効果は無いが、意味はある。左の手を添えると同時に、水の塊は表面から凍りつき、ついには一回り大きい氷の塊となった。
氷の塊は先端が尖り、誰の目にも明らかに殺傷能力が上がっていることが見受けられる。もちろん、氷魔法はフードに隠れたオリオンがやったのだ。
「本当にいいんすね!?」
周一は確認をとる。腹いせとは言え人殺しをする羽目になるのはごめんだ。
「かまわん!!来い!!」
((むさ苦しいおっさんだ…。これで少しは冷えてくれよ!))
周一は氷魔法を発射!数メートル離れたたくましい男に直撃した。直後、水蒸気の煙が上がり、一瞬で視界は白に染まる。そして白が晴れ……
「ガッハッハ!Eランクだ!」
ギルドマスターは楽しそうに宣言した。
「ちょっと待ってよマスター!」
見物人の中から女性の声がする。群衆をかき分け現れたのは、20代前半程度の女魔法使いだ。
「今のは凄い技術だったよ!?ちょっと、もう一回見せて?」
「ああ、いいっすよ」
周一は二つ返事で了承する。右手を前に突き出し、水の塊を呼び出す。左手を意味ありげに添えて、水の塊を凍りつかせ……
「なんて器用なの…。こんなの別々の意思が別々の魔法を使わないとあり得ないのに……!」
((まあ、別々の意思でやって……
器用…?))
「うっ…。」
周一は頭を押さえて地面に膝を着いた。ぐらついた瞬間に魔法は斜め上空に飛び出し、どこかへ飛んでいった。
「すみません。旅の疲れでうまく集中できなくって。」
周一はそれらしい言い訳をし、こめかみを押さえながら立ち上がる。
((器用……そう、器用だ。一気にかなり思い出した…。
俺は器用だった…。何をするにしても……。))
「それなら、私の家に来て!魔法のことで色々と話したいの!一緒に魔導の真髄に近づきましょう!」
周一は流されるまま、ずりずりと引っ張られるようにしてその場を後にした。




