町へと(1)
呆れるほど続く草原、そこに人影あり。彼は旅人であり、頭の上には奇妙な幼虫が1匹。彼ら、周一とオリオンが目指すのは、森の出口から北東に向かった先の、村の様な、町の様な、何かだ。ひとまず行ってみれば分かる。
周一はふと後ろを振り返る。
今でも向こう側には果てしなく続く森が見える気がした。もう森からずいぶんと離れた。見えるはずもない。下山してから3日といったところか。周一は毒龍・ヨルンと出会った山で採れた謎の木の実を食べている。
ものすごく歯応えのあるリンゴをイメージしていただければ、それで間違いは無いだろう。ちなみにしっかり毒リンゴだ。しかし、鎖の勇者たる周一は、毒が無効であり、気にせず食べることができる。しかし歯応えは嫌でも気になるのであった。
((毒龍、そして俺は毒無効…。アイツとこの鎖には何か関係あるのか?))
周一は歩きながらとりとめもないことを考えていた。
((……しかし、水魔力での身体強化を修得してからは前よりずっと旅がしやすくなったな。昔はスタミナの無さが欠点だったのに…。))
周一は昔の記憶を思い起こす。
この世界に来る前の周一は、いわゆるモヤシっ子であった。しかし、ただのモヤシではなく、動けるモヤシだ。特に瞬発力にはそれなりの自信があった。だがしかし見た目通りの部分もあり、持久力はまるで無かったのだ。
「ん?あ、これ思い出したやつだ!ちょっと記憶戻った!」
異世界にやって来た周一の元々ひょろ長かったシルエットは少しだけガッチリとし、身長も少しだけ伸びていた。その長身痩躯といった言葉がぴったりの彼は、頭の上の相棒に話しかける。
「なあオリオン。俺は昔、スタミナに難ありのスピードファイターだったんだ。
ところが身体強化でやばいほどのスタミナを手に入れた。これは実質無敵じゃねえか?」
オリオンはぐるぐると周一の頭の上を回った。とぐろを巻く龍の仕草だ。ついこの間ヨルンに殺されかけたことを忘れたのか。そういう意味であろう。
「いや、あれはチートだろ…。無理無理。お前も無理だったじゃねえか。」
誰が助けてやったんだとばかりにオリオンは周一の頭に頭突きをかました。
「まあ、でも……あのときはすまなかった。ありがとうな。」
オリオンは満足そうにうなずいた。
そんな平和なやり取りをしながら旅をする一人と一匹は、これまでの短い間に数多の試練を乗り越えてきている。二者はまさに相棒であった。つかの間の平和な時が過ぎる。旅は危険に満ちている。いつ何時、脅威が襲い来るか分からない。
そしてそれは来た。
「ヒャハハハハ!俺は爆弾魔のニッぐはああああ!!」
目に入るや否や、オリオンが爆発頭の男に水魔法をお見舞いした。周一は呆れた。
「またお前か。」




