ハイキング(6)
「お前、それで良いのか…ははは……はぁ…はぁ…笑い疲れた。」
ヨルンはひとしきり笑った後、素に戻った。
「まあよい。お前が決めたことだ。教えてやるわ。」
「お願いします。」
周一は出来る限りの情報を引き出そうと必死だった。
「魔力を身に纏って身体強化するのは常識だろ?逆に身体強化もできないのに私の元に来ることはできない。
お前は今だってやっているではないか。」
「はあ…。」
((やはりか。俺もオリオンと同じく、無意識で身体強化を発動している。))
「私はそのとても汚い魔力を見たくはないんだがな。まあよい。
身体強化は基本的に四元素の魔力でしかできない。」
「基本的な身体能力上昇に加えて、
火は筋力や動体視力を
水は柔軟性やスタミナを
風は体が軽くなり、俊敏になる。勿論、火よりも動体視力は上がる。
土は体が重く硬くなり、守りが堅牢になる。
それと、同属性への耐性も上がる。こんなことも知らずに過ごしていたのか?」
「何分、世間知らずなもので。」
周一は苦笑して返す。ここまで有益な情報が手に入ると思っていなかった。
「合元魔力や古代魔力…人間の間ではこう言うんだったか?
これらで身体強化をするのは無理に近い。
仮にできても、集中が解けぬようその場から動けないだろう。
これにて享受は終わりだ。」
「ありがとうございます。」
((よし、これでこの先の旅に有益な情報が手に入った。恐らくこれは常識なんだろう。龍の叡智と言うからには、質問次第でもっと価値のある情報が手に入ったかもしれない。でも今はこれが精一杯だ。))
「ところで僕らは旅人なんですが、ヨルンさんはここで何を?」
「は?ここは私の家だぞ。もう300年は外に出てない。旅人というのならとっとと出ていけ。いい加減邪魔。」
周一はこれ以上引き下がっても何も得られないと判断する。仲間に加えたかったのだが、さすがに無理の極みであった。
「マジすか。それじゃあ失礼しま~す。また何かあったらお邪魔するかもしれません。そのときは何卒。」
「次は絶対に殺す気でかかるからな。」
周一はうげぇと声を漏らし、いつのまにか龍の姿に戻ったヨルンの尾が指し示す先を目指す。ひときわ光る大きな水晶が地面から生えており、そこを横から回り込む。出口だ。
「じゃあ…なんかその…またお願」
「早く出ていけ!」
ヨルンは恐怖の権化たる声音で周一を怒鳴り付けた。
「失礼しましたああー!」
周一は、子供向けアニメで毎週倒される悪役のように情けない声を上げながらその場を後にした。
周一の頭の上のオリオンがやれやれといった感じで両手を上げたのだった。




