序章:別の朝(2)
彼が森のなかで目を覚ましてから数時間が経った。森では日差しの変化が乏しく、体内時計でなんとなく昼過ぎであろうことしか分からない。
彼はこういう状況に詳しかった。詳しかったはずであったが、全く思い通りにはいかなかった。
泉を見失わぬよう、気を付けながら森のなかを少しずつ探索する。だが、未だ何も見つからない。食料もない。
「腹減った……。おかしい…そろそろなんかイベントとか起こっていいはずだろ…。」
そう、彼はいきなり窮地に立たされていた。当たり前である。現代人が突然、全く知らぬ森に放り出されてまともに順応できるわけがないのだ。そして現実は非情である。彼は森で生き抜くすべを手に入れねば、せっかく受けた生を数日も経たぬうちに使い潰してしまうだろう。
「森しかねえし…世界観が分からんな…。」
寂しさを紛らわせるためか、彼は独り言が多くなっていた。もっとも、彼は元々口数が多いのだが。
突然だが、サバイバル系のゲームをプレイしたことがある方は居られようか。ある日突然、身一つでゲームの世界に放り出され、生活を余儀なくされる。こういったゲームでは夜が危険だ。特に一日目は物資に乏しく、夜を乗り越えるのが第一の課題になるであろう。そのためには昼の間に準備をする必要があるのだ。
では、周一はどうか。彼は頭に靄がかかったように意識がおぼつかない。ほとんど何の準備もせずに夜を迎えようとしていた。
薪になりそうな乾いた枝を拾って泉に戻る。何か火を起こせそうな石は無いか…。朝から何も食べていない。泉に魚はいないか。日が傾きかけてよく見えない。
「あ、これ詰んでね?」
思わず声が漏れる。そのときである!




