ハイキング(1)
森を抜け、草原を抜け、周一とオリオンがたどり着いたのは山であった。雑草が生い茂っていた草原から突如、砂利山へと景色が変貌する。そこまで高くは無い山だ。あと数日もかからぬ内に登りきるだろう。
「見晴らしが良すぎるよな。モンスターとかに狙われたら隠れる場所が無い。
地面は砂利と石ころばっかりだし。」
周一は辺りを見回す。山と言えば森になっていると考えがちであったが、そうではない。禿げ山なのだ。ほんの少し、やる気の無さそうに背の低い木が生えているだけだった。
「お!この木、実がなるのか!採っておこう。」
オリオンは周一の上半身に巻き付いた鎖をガジガジとかじっている。
「うし、そろそろ挑戦するか。オリオンはしっかり掴まってるように!」
周一の目の前には断崖絶壁がそびえ立っている。この山に入ってからここまでゆるゆると坂を登ってきたが、唐突に坂が急になり、気がつけば目の前は断崖絶壁だったのだ。だが、彼には登る手段がある。
片手の鎖を頭上の崖に向かって伸ばす。鎖が障害物にめり込んで伸びる性質を利用して、杭打ちの必要無く手綱を用意することができる。鎖をしばらく崖に向かって伸ばし、引っ張っても抜けないところまでめり込ませる。
周一はアスレチックの崖登りの要領で鎖を手繰り、崖を上った。落ちそうになったらオリオンの水魔法のクッションや、最悪の場合は鎖を地面に打ち立てて止まる方法がある。そうならないことを祈るばかりではあるが。
約3時間後、周一は見事に崖を登りきった。
((どれぐらい登ったんだ…。さすがに疲れた……。でも普通に考えてこんな崖、なんの訓練も無しに登れねえよな…。ひょっとして水魔力の身体強化のおかげか…?))
つい先日、魔力が身体能力を向上させる仮説を立てて終わった周一だが、今はさらなるデータを収集中であった。話の通じる人間に会えればもう少し何かわかるだろうか。彼は思った。
「つーか、ここが頂上かよ!!」
崖の先には何もなかった。何となく円形を保つ小さな足場と、見るからに何かを奉る祠があるのみ。そう考えると登るのにそこまで苦労しなかったとも言える。
「こんな楽に登れるとは…。迷いの森ってやばいところだったのかもな…。」
彼の感覚は麻痺しており、3時間の崖登りをそこまで苦にもしていないのであった。
「日が沈んできて危ないし、周りを見渡すのは明日にしよう。今日はとりあえずここの祠で夜営だな。」
この山の恐怖が、祠の闇の先にあることを彼らはまだ知らない。




