森の先にて(6)
周一の目に写る光景、それは草原。頭がおかしくなるほど見つめてきた森をついに抜けたのだ。彼は外に出て初めて理解した。今までどれ程過ごしにくく閉塞的な場所に居たのかを。
そして同時に思いを馳せる。この数週間の間、毎日生きた心地がしなかった。オリオンがいなければ何度命を落としたか分からない。オリオンがいても死と紙一重の毎日であったのだから。
「辛かったなあ。ようやくだ…。」
オリオンは周一の頭の上でパチパチと手を叩く。周一は辺りを見回し、間もなく日が沈むことを察知する。草原の草は背が高く、彼の肩まで届くところもある。ともかく森を抜けたのだ。周一にはようやく旅が幕を上げたように感じられた。
その日、周一はこの世界に来て初めての夕焼けを見た。視界が滲んだ気がした。これから生き抜くすべを考えねばなるまい。ひとまず今日は比較的背の低い草を踏み潰して場所を取り、夜営にしよう。
そう考えていた時である。
「ヒャハハハハハ!!俺は爆弾魔のニック!てめえには悪いが死んでもらうぜ!!」
人だ。人がいる。森から出てすぐに人に会えるとは幸運だ。ただし、普通の人であったならば。
「おお…この世界にはここまでテンプレなチンピラヒャッハーが居るのか…。」
周一は対応に困った。
((急に何だこいつ?何故命を狙ってくる?それにしてもこのチンピラ、今まで戦ってきた森の魔物より強い気がしない…。俺の鎖とオリオンの魔法で余裕だろ。))
その判断が過ちだと気づくのに一瞬であった。当たり一面が轟音と共に爆ぜ上がる!
「どうしたどうしたぁ!森から出てきたってことは多少はできるんだろぉ!?てめえの首でいくらもらえるんだ?ああ!?」
((テンション高いなこいつ…。))
胸中で余裕ぶっている割に、周一の背には冷や汗が滲む。言動のわりにかなり強そうだ。今のは威嚇爆撃といったところか。周一の立っている周囲のみが焦げている。
「ほ~ら次は当てるぞ~?」
ニックと名乗った男はニタリと笑う。その頭はギャグ漫画で電撃を受けたキャラクターのように分かりやすく爆発している。
((爆弾魔を名乗った男の頭がアフロだったら油断するだろ…。くそっ!))
「オリオーン!!」
地面でもそもそしていたオリオンが風魔法で飛び上がり、周一の背にしがみついた。
「おらっ!」
ニックの手から赤く丸い弾丸が発射される。周一は瞬時に判断した。来る方向が分かっていれば対処できる。手首から鎖がジャラジャラと伸び、魔法をはたき落とそうとする!
鎖がニックの赤弾に触れた瞬間、魔法は爆音と爆風を撒き散らして球状に展開した!そしてその煙の中から、ものすごい速さでニックが現れ周一に飛びかかる!
周一は鎖を巻いた左腕で咄嗟にガードする!ニックは何と拳で殴りかかってきたのだ。盗賊や追い剥ぎの類いならば、恐らく武器を持っていると踏んでいた周一の予想は外れた。
そして非常にまずい予感がし、左腕の鎖を急いでほどく。ほどいた左腕の鎖をニックに向かって伸ばすも、途中で爆発する。やはり、触れられたらアウトだ。
((どうする。人間の出せる速度じゃないだろ今のは…。どうなってる…爆風で飛んでるような素振りでは無かったしな…。))
このままではじり貧と見た周一は相手の意表を突き、決着を急ぐ作戦しかないと判断した。こちらから走り出す!
「ふん…。」
ニックは鼻で笑いながら両手の赤い弾をそれぞれ射出する。それを2本の鎖が貫通し、爆ぜる。周一はすでに水魔法の準備を終えている!
「食らえ!」
周一の手から放たれる水弾はニックの放つ魔法より大きく、さらにずっと速い。だがニックはこれを難なくかわす。
「死ねや。」
ニックは一気に距離を詰め、周一の目の前で手を広げた!そこには赤弾が!だがそこへ周一の拳がフックで突き刺さる!間髪いれず二人の間に爆発が生じた。
煙が晴れ、そこには倒れ込むニックとびしょ濡れになって立ちすくむ周一の姿があらわになる。周一は一瞬の隙を見逃さず、鎖でニックを縛り上げた。
「お前の敗けだな。」
周一は言い放った。




