森の先にて(5)
「なんか夢を見てた気がするんだよなあ。でも忘れちゃったよ。オリオンは夢とか見るのか?てかお前いつ寝てるんだ。毎日夜番ありがとうな。」
周一は相変わらず変わり映えしない景色のなかを歩く。頭のオリオンからは返事がない。
「あ、今寝てるのか。すまん。」
周一はベシッと頭を叩かれた。今の呼び掛けで目を覚ましたオリオンがやったのだ。オリオンはもぞもぞと周一の背中まで移動し、鎖をガジガジとやりはじめた。
ちなみに今、周一の上半身は鎖に覆われている。首を一回り、左肩から右脇腹にかけて袈裟懸けに数回巻いてある。鎖で作った即席防具だ。
鎖の両端はそれぞれ背中側から肩、二の腕を通し、肘から両手首までをぐるぐる巻きにしてある。見てくれは上半身と両腕に鎖を巻いた休日の大学生といった感じで非常にアンバランスだ。
両手首の鎖はいつでも伸ばせるよう端をぶらぶらとさせている。有事の際は手首から先の鎖を伸ばし、攻撃や移動に用いるというわけだ。
周一は歩きながら水魔法の練習をしていた。前に水を飲んだのはいつだったか。
((ていうか人間ってこうまで水分摂らなくても生きていけるものだっけか…?よく生きてるな俺…。))
「あ、オリオンよ。ひとつ思い出したぞ。俺は少なくとも24歳までは生きた。」
オリオンが背中を3回叩く。いつもより1回多い。
「なんだ、年の概念は分からないのか。年ってのは人間が生きる上で作り出した区切りだ。
お前は生まれたてのヒヨっこだけど、俺はもう区切りを20回以上経験しているというわけだ。先輩なんだぞ。」
オリオンは背中をベシベシと叩いた。はいはい、分かった分かったという感じだ。
「生意気だなー…でも現状俺の方が足手まといだからな。言い返せない…。」
オリオンとの会話を一時中断し、精神を集中させる。会話をしながら魔法を放つのは難しいのだ。
「おりゃっ!」
周一の突き出した手にはサッカーボール大の水が浮かんでいる。それが突如、まさしくフリーキックで蹴られたサッカーボールのように吹き飛んだ。
「うーん。まあまあだな。アクアボール?アクアショット?分からんけどそんな感じだ。」
吹き飛んだ水の塊が積み上がった倒木に当たり、ゴロゴロと崩れた。
「お!!おおおおおお!!!!」
目の前に、木が生えていない。




