森の先にて(4)
「おーい、起きろー。」
「起きてー。」
「おいこら。」
何かが覗き込んでいる。
もうそんな時間か…。
いや、覗き込んでいるのは……俺か。
じゃあ俺が起こしたいのは誰だ…?
視界が明るくなる。
周一は風切り音と、それ以上にけたたましい羽音で目を覚ました。すぐ前でオリオンがハチの魔物と応戦している!
「すまんオリオン!」
周一はすぐさま鎖を打ち振る!鎖は生き物のように素早く動き、ハチの胴体を縛り付ける。動きが止まったところにオリオン渾身の風魔法が炸裂し、ハチ型モンスターは頭と胴体が別々の方向に分かれて飛んでいった。
「まずいな…。」
群れを作る昆虫は、フェロモンで統率を取る。恐らく今の戦闘の最中に撒き散らされたフェロモンの量は計り知れないだろう。これを嗅ぎ付けて他のハチが報復に来る可能性がある。周一は即座に判断し、鎖を使って木々を飛び回った。
「あー、しまった。方角が全く分からなくなったな…。ていうか鎖使うとめちゃくちゃ疲れるな。やばい、死ぬほど眠い。」
しばらく逃げて耳を凝らすも、羽音は聴こえてこない。もうすぐ日も沈むだろうし、ひとまず撒いただろうか。オリオンは周一の頭の上でくるくると回転し、しばらくした後、からだ全体である一定の方向を指し示した。
「え?マジ?マジで方角わかるのかよ。すごいな!」
オリオンは後ろ4本の足で体を起こし、前の2本足でパチパチと手を叩く動作をした。良くできましたといったところだろうか。
「いや、それは褒められる側がやる動作ではねえよ。」
周一はウトウトしながらも目についた毒キノコを取りつつ森のなかを進む。以前トカゲに食べられそうになったとき、相手の口のなかにこいつを突っ込んで勝利した。できれば二度とトカゲの口に手を突っ込む体験はしたくないが、ともかく役に立つのでしっかり集めるようにしている。
しばらくキノコを集めた後、焚き火をする。集めた毒キノコを燻し、奇怪な色の煙を出しておけば多少の厄介払いになるだろう。オリオンは地面に降りて土を食んでいる。
「しかしお前はすげえよな。生まれてすぐ魔法が使えるんだもんな。………俺もできねえかな。ふん!出ろ!
……出ないな。」
それを見たオリオンは両手、この場合は前1対の足を広げて体を振り、何かを伝えようとしている。
「ははっ何だそれ。目が緑だから…風は……速い……。まあ違うか。え、合ってるのか!!」
周一はオリオンのボディーランゲージを全力で理解する。この二者の間には、短い期間であるが目に見えぬ強い繋がりが生まれつつあった。
「うーん……イメージが大事ってことか?大体魔法なんてそういうやつだろ。」
オリオンはうんうんと頷く。これも合っていたのだろうか。周一は焚き火に手をかざし構える。
「冷たい…火を消す……流れる…あと何だろう…こう…バシャッと…」
周一の想像通り、バシャッと音がし、焚き火が水をかぶって消えた。水魔法だ。
「俺も天才かもしれん!」
いつのまにか日は沈みきり、焚き火が消えて辺りはすっかり暗くなった。オリオンは周一の目の届かぬ所でひそかに首をかしげたのであった。




