森の先にて(1)
オリオンと出会ってから2週間ほど経過しただろうか。きちんと日にちを数えていない。生きるのに精一杯だ。
オリオンというのは、森を行く周一の肩にしがみついている何かの幼虫のことだ。
「カブトムシってのは大体神話に出てくる強い男の名前がついてるんだ。ヘラクレスしかりアトラスしかり。
というわけでお前の名前はペルセウスとかジークフリートとかオリオンとかにしようと思う。好きなの選んでいいぞ。」
数日前にこういった会話があった。どうやらこの幼虫は魔法を使えるほど頭が良く、意思の疎通ができる。そういうわけで、カブトムシに育つと決まったわけではないが、ともかくオリオンと名付けられたのである。
オリオンは普段、周一の頭の上にぺたりと伏せるか、肩の鎖にしがみついて一生懸命な様子で鎖にかじりついている。鎖はしょっちゅうガジガジと削り取られている。不思議なことにしばらくすると新品同様に戻るので気に止めていない。
もうじき夕暮れだろうか。なんとなく暗くなってきたからそうであろう。森のなかで日の出入りは見ることができない。周一は焚き火を止めて早く木に上ろうと手頃な木を探しているところだ。
ちょうど良い木を見つけてのぼる。2週間ともなれば、もう手慣れたものだ。周一が体を持ち上げるたび、肩の鎖にくっついたオリオンがプラプラと振れる。
この森は『迷いの森』。木々が集合的な意志を持って、迷い混んだ人間を外に出さないようにし、いずれは養分とする恐るべき森だ。つまり、方角の確認が必須であり、そのためにも木に上る必要がある。
周一はひとまず上れるだけ上り、葉の間から顔を出す。日没後すぐの星の位置で何となくの方角を探っているのだ。ここから落ちたらあっという間にモンスターのエサだろう。何しろ高さは10m以上ある。
「なあ、お前なら方角わかるんじゃね?ちょっとあの星の方向を覚えられないかな?」
オリオンは現在、周一の唯一の話し相手だ。オリオンは周一の頭によじ登り、しばらく空を眺めてからペシペシと足場である周一の頭を叩いた。覚えたということだろうか。
「マジでか。お前に何ができるかイマイチまだ把握できないんだよな。」
ちなみに目指す先は、よく分からない。夜は見通しが悪くて遠くが見えないし、昼にこんな木の上へのぼればすぐさまハチのエサになるだろう。
「また昨日からだいぶ逸れたな…。やっぱり何も考えずに進んでたら同じところをぐるぐる回ることになりそうだ…。」
オリオンは周一の頭の上でウンウンと頷いている。その体に埋め込まれたような珠は薄ぼんやりと緑に光っている。それが唐突に点滅した。
「ん?」
それは周一が何かを察すると同時だった。




