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「あ、あー。お待たせしました」

「はい」


 ようやくユキリがショーコちゃんを説得させたようだ。

 降ろしていた木刀を両手に持ち替え、リリアに立つ様に言う。


「じゃあこれから俺が本気の攻撃を出すから、それをその身で受けてくれ」

「……え?」

「この俺の本気、それを超えられるくらい強くなるよう頑張れ。俺も手伝える範囲であれば手伝ってやる」


 そう言ってユキリが両手で・・・木刀を持ち、居合いをするような構えになる。さっきまでの、片手で正眼に構えていたのと異なる。


 ユキリの本気の攻撃、それを受けてみろと言っている。それはリリアを今から殺す、と言う事に他ならない。

 しかし本気の攻撃を見せてくれる、と言う事は今ユキリの居る遥か高い場所へ登って来い、と言っているのだ。

 リリアは、這い上がっても俺の側へ来い、その為に俺も手伝ってやる、と受け取った。

 心臓の鼓動が早くなり、自然と頬が少し赤くなる。

 だがリリアには目標となる人がいた。


 三年前リリアがウィッシュ能力に初めて目覚めこの世界へやってきたとき、見知らぬ角の生えた怖そうな男に捕まり、そのままその男に似た容姿を持ったたくさんの人がいる場所へと連行された。そしてテントの中へ押し込められた。

 そのテントの中には、リリアと同じように捕まったであろう女たちが数人いた。きっとあのままだと、たくさんの男たちに慰み者にされ、最後は殺されていただろう。

 今ならば能力を切断すれば元の世界に戻る事ができるのを知っているから、万が一そのような目に合ったとしても逃げられる。

 しかしあの頃のリリアは全くそれを知らなかった。一晩テントの中で嗚咽を混じらせながら泣くだけのか弱い少女に過ぎなかった。

 しかしリリアが捕まったその翌日、そのたくさんの男たちはたった一人の少年によって壊滅状態となった。

 その後すぐに妖精族の人たちの手によって救い出されたとき、リリアは光る剣を持つ少年が自分を助けてくれた事を知った。

 結局その少年の姿を見ることは出来なかったが、彼にいつか追いつきたい、そして可能ならば追い越したい、あの頃の弱かった自分を捨てたい、と強く願うようになった。


 一瞬ユキリがあの彼なのでは、と思ったがウィッシュ能力が人類に与えられたのは三年前だ。そしてリリアが捕まっていたのも三年前。

 この世界で生まれ育った人ならともかく、元の地球にいた普通の少年がいきなりこの世界に来て、軍を壊滅できるほど強い訳がない。


 だからユキリには悪いがあの少年に追いつく為、いつか出会った時彼に認めてもらう為、ユキリを糧にしてでも強くなるのだ。

 それまでは誰も好きにならない。


「お願いします」


 リリアの目が大きく開く。まるで一瞬足りとも見逃さない、と言うように。

 それにユキリが反応した。

 良い目だ。アレを見せてやる価値のある目だ。


「リリア、お前に見せてやるよ。本当の剣技って奴をな」


 突如ユキリの持つ木刀が輝きだす。それはまるで光り輝く一振りの剣だ。

 そして誰かを庇うように大きく両手で剣を振りかぶった。


ショーコ・・・・ちゃん! 危ないから後ろに下がってて!!」

「……え?」


 リリアはユキリの背後へ視線を移すが、当然誰もいない。

 先ほどまで真剣な目をしていたのに、いつの間にか痛い子を見るような目へと変化している。

 だがそれを無視してユキリは更に叫ぶ。


「俺のショーコちゃんは、せかいいちぃぃぃぃぃ!!」

「…………」


 憐れむような目になるリリア。

 だが彼が叫ぶと同時に周囲が変化した。


 ……何これ?


 周囲の空気が徐々にユキリの持つ剣へと集まっていく感じがする。それと共に次第に輝きが増していく剣。言動は変だが実力は本物だ。

 いつの間にか眩しい程に、そして熱を持ったように赤く輝きだす。リリアは眩しくて無意識的に塞ぎそうになる目を必死で堪える。

 ユキリの周囲にある地面が陥没し、大気が震えだした。振動がリリアの身体を揺らし、震え上がらせる。


 怖い。

 生に執着する動物が本能で危機を察知し逃げ去るように、逃げ腰になる身体を押さえつけ、ユキリの剣を見続ける。

 それは太陽だった。

 凄まじい圧力を感じる。

 これが《気》というものなのだろうか。

 リリアの持つ魔力量は並外れている。それは先ほど連続して音の衝撃波を次々と出した事からも分かる。魔法を使う普通の人ならば、あれだけの魔法を連続で使用すればあっという間に枯渇してしまうだろう。

 それが、あの圧力の前では霞んでしまっている。


「しっかり見てろリリア! 光王剣奥義、龍覇消りゅうはしょう滅斬めつざん!!」


 ユキリが叫ぶ。

 彼が両手に持つ剣の光りが、まるで細かい散弾銃のようにリリアへと殺到してくるのが見えた・・・

 昔、一度だけ地表の映像で見たことのある雪。それに似た光の雪が、吹雪となってリリアを襲ってくる。

 光の奔流が次々とリリアの身体、すぐ側を通り過ぎていく。


 この時ユキリは、当たり前だがリリアを殺すなんていうつもりは無かった。わざと、ぎりぎり身体に当たらないくらいで済ませようと思っていた。

 だが一年というブランクは大きかった。

 極僅かに手元が狂って、リリアの身体を少しだけ掠めてしまったのだ。

 それは薄皮一枚程度だっただろう。


「……あ」


 光の奔流が収まり、昼間以上に明るかった世界が元の暗闇へと変わっていく。

 リリアはまだ自分が生きて、この場所に立っている事に驚いた。きっとあのまま死んで、自分のベッドの上で目が覚めるだろうと思っていた。

 彼は私に全てを見せてくれる為、わざと外したのだと理解した。

 しっかりと見せてもらった。あれが彼の本気。個人が出せるようなレベルの威力ではなかった。まるで大規模破壊兵器だった。

 ユキリが見せてくれた、彼の居る高さ。そこへ這い上がらなければならない。


 ありがとう、とそう言いそうになった時、肝心の彼は真っ赤な顔をして私を見ていた。彼の視線は私の下半身に注がれている。

 どうしたのだろうか?

 そのとき風が吹き、そして下半身が心もとない感触を感じ取る。

 顔を下へと向ける。

 膝までの長さのあったスカート、それを止めていたベルトが切られ、すとんと足元に落ちていた。

 ユキリの位置からなら、今流行っているキャラクターの絵柄が描かれている白いショーツが丸見え状態だろう。


 地面にしゃがみ込み落ちたスカートを拾い上げ、そして腰の位置まで上げて手で押さえる。

 その後、リリアはこの数年間あげることの無かった悲鳴をあげた。



「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 変態変態しねしんじゃえこの馬鹿ユキリ!!!!」



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