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ひびわれキツネとすてきなマホウ

彼はキツネの形をした置物でした。

ふかふかのぬいぐるみでも、元々本物のキツネだったわけでもない、ただの陶器の飾り物でした。


彼のご主人様である少女は、冷たく硬い肌の彼を

他の可愛いぬいぐるみやキレイなお人形たちと同じように並べて、

分け隔てることなく愛してくれました。


彼は彼女の部屋の中、幸せに暮らしていました。


ところがある日、

彼の寝床である棚に、いたずらな猫がやってきたのです。

猫の大きな身体に突き飛ばされて、あわれ、動けぬ彼はまっさかさま。


陶器のキツネは、落ちた拍子にツンと突き出た鼻を

床にしたたか打ちつけけたものですから、

彼のその大事な高い鼻は折れて砕けてしまったのです!


それを見つけたご主人様はとても悲しみました。

そしてキツネがこれ以上壊れたりしないようにと、暗くて狭く、安全な小箱の中へとキツネをとじこめてしまいました。


そこは安心できる場所ではありましたが、

キツネはこの場所を少し怖いとも思っていました。


ご主人様はこの場所を滅多に見てはくれません。

もしかしたら、彼女はもう二度とここへ来てくれないかもしれない。

いつもそんな不安がキツネの中にあったのです。


そんな不安があふれてきて、キツネが静かに涙を流していると、

キツネのもとに誰かがやってきました。


それは、魔法使いのおじいさんでした。彼は

「陶器のキツネが泣いているのは、壊れてしまった鼻が痛むから」

だと考えて、魔法でキツネの鼻をくっつけてくれました。


それでもキツネの涙が止まらなかったものですから、

魔法使いはふしぎそうにたずねました。


「キツネくん、きみはどうして泣いているのだね?

 もう痛む傷はすっかり治ったというのに」


「傷はもう痛くありません。けれどご主人様に会えなくて、

 このまま忘れ去られていくのがとても悲しいのです」


「そんなことはない、お前が望めばすぐにでも会える」


「いいえ、傷跡残るこの顔であの子に会ったなら、

あの子はきっと、私の事故を思い出して心を痛めてしまう

私は、心を刺すトゲになってまであの子のそばにいたくはない」


キツネのその言葉に、魔法使いは少し考えて答えました


「ふむ、ならばこうしよう。

 彼女が心を痛めずに、お前のことを思い出してくれるように」


そう言って、魔法使いはキツネに仮面をつけてあげました。

おかげでキツネの顔の傷跡はすっぽり隠れてしまいます。


「それは魔法の仮面。

 これでお前は傷跡を隠し、同時に魔法使いとなったのだ」


しかし、魔法使いは難しい顔をしてこうも付け足しました。


「しかし、ただ傷を隠しているだけでは、

 お前が悲劇を思い出す引き金であることに変わりはない。

 このまま彼女に会うことはできないだろう」


「なら、私は一体どうすればいいのでしょう」


キツネの問いに、魔法使いは答えます。


「魔法の力を使い、同じ苦しみを抱える子たちを助けてあげなさい。

 そして助けた彼らと共に、多くの冒険を経験しなさい。

 そうして生まれた物語を、私が彼女に届けてあげよう」


「私たちの、物語を?」


「そうだ。その活躍が彼女の耳に届く時、お前という存在は

 彼女の中に悲しみではなく、喜びと夢を与えるものになるだろう」


その言葉に納得し、キツネはさっそく小箱を飛び出しましていました。


こうして魔法使い……の見習いとなったキツネは、

ご主人様のもとを離れて、長い長い旅を始めました。


足の欠けたおもちゃや、服の破けたお人形、

ワタの飛び出たぬいぐるみなど……


旅の中で、キツネはたくさんの仲間たちに出会いました。

キツネは彼らを魔法で治してあげて、一緒に旅を続けました。


それから魔法使いに言われた通り、たくさんの冒険にも挑戦しました。


知らない土地におもむいて、宝探しや、悪者退治。

時にはみんなでお芝居をしたり、困ってるひとのお手伝いをしたり。

とにかく、誰かを喜ばせることをめいっぱい行いました。


あっという間にキツネとその仲間たちは有名になりました。


最初のうちは魔法使いが彼らのお話を届けていたというのに、

今ではそんなことをしなくても、

すぐに彼らの活躍が少女の耳に届くほどでした。



実は、今もまだキツネはご主人様に会えていません。

会いに行く暇もないほど、彼は楽しく忙しく過ごしているからです。


少女はそんなキツネの旅の無事を祈りながら、

いつも彼の冒険話を心待ちにしています。


キツネと少女の間には、もう悲しい隔たりなどありませんでした。


魔法使いになったキツネがステキな物語を紡いでくれるおかげで、

キツネが壊れてしまったあの時の悲しみは

少女の心の中からもうすっかり消えていたのです。


だからもし、昔壊れてしまったおもちゃが、

ふとあなたの前から姿を消しても、どうか悲しまないでください。


その子は、このお話のキツネのように、

魔法の力を授かって、あなたのために旅に出たのです。


いつかあなたに、ステキな物語を届けるために。

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