戦闘
『一寸先は闇』ということわざがあるじゃないですか?一秒後がどう転ぶかわからない。地震があるかもしれないし、心臓発作で死んでしまうかもしれない。人生は常にスリリングなのだ。
★★★
「タクロウゥゥゥゥゥゥ」
本当どこ行ったんだよ…
っていうかここどこだよ…
ハラへったよ、家帰りたい
林のなかを歩いていた。青々と生い茂る1mくらいの草が歩く邪魔をするのでイライラする。幸いにも温度は心地よい、涼しいのであまり体力を消費せずに長時間探索をすることができる。草が膝上まで成長しているので地面が見にくい状況だ。
ガサガサガサガサ
風も吹いていないにもかかわらず約3m先の草が揺れた。何かいるようだ。
タクロウか?
無事ならいいんだけどな。
俺は急いでそこに行ってみた。草むらが揺れている所に着くとまだ揺れていた。草をかき分けて地面をみる。
タクロウにしては小さいし、タクロウっぽくないな。
ん?まてよ、この青色にどろっとした液体のような生き物って!
そう。草むらの中でRPGゲームで序盤に出てくるようなテンプレ、
スライム? がいた
幸いにもスライム? はこちらに気づいていない。俺は全力で距離をとる。
これはゲームじゃないんだ。夢かもしれないが、死んだら加護の効果で復活とかいうゲームのような奇跡は無いんだ。死んだらゲームオーバー、その文字が俺の頭の中で警報のように鳴り響く。
突然、奴がいた草むら付近が動き出す。こっちに向かってきている。しかも早い、俺の足音に気づいてしまったようだ。
どうするか、戦う、逃げる
俺は手を構えた。小学生の時に空手をやっていたから多少の技は可能だ。所詮は二流だがな。
俺は『戦う』を選んだ。というよりもそれしか方法がない。敵も早いし逃げ切れる自身が無かったからだ。先ほどはパニックに陥っていて正常な判断ができなかったことがいくつかある。
一つはここが『異世界』だということ。まず地球にこんな生物が出たら号外新聞に乗るだろう。UMAとして。二つめはスライムは今まで攻略してきたゲームの中では、とても弱いというところだ。
なんとかなるか? いや、何とかさせなければいけないんだ!
向かってくるスライムとの距離がどんどん縮んで行く。周りの草がじゅわじゅわと枯れている。酸性の効果を持っているのだろうか。
そんなこんなで様子を見ているうちに俺の攻撃射程距離に入った。
まずは、かかと落としをする。自分の持ち得る全身全霊の力を使い攻撃をする。こんなことをしたのは、いつ以来か、いや、こんなに本気のかかと落としは初めてだろう。何せ、この威力を人間で試したら間違いなく肋骨の2本や3本は軽く折れるだろうという力を使ったのだから。
結果としてスライムは無傷だった。当たった直前にプニッという弾力のある音が聞こえたので、攻撃が吸収されてしまったのだろう、もしスライムが予想よりも、硬かった場合、俺の足は間違いなく骨折だっただろう、ゲーム知識に助けられた。最悪の状況を考えただけで寒気がする。
あ、靴が溶けてる…
かかと落としをした右足の靴底が無くなってしまっている。それに加え靴の上の部分までジュクジュクと溶けてしまっている最中だ。俺は急いで靴を脱ぐ。そしてスライムを見た瞬間!
スライムは体を液体状から球体状に変え、バネのように体を使い突進してきた。俺は意識を靴の方へと向けていたため、回避のができなく、鳩尾にモロに突進を受けた。
今までに味わったことのないほどの痛みが俺を襲った。例えるならプールの飛び込み台から、ふざけてジャンプして水面に強く体を打ち付けたような痛みだ、その2、3倍くらいの痛み。
咳をし、吐血をした。人生初の吐血だ。鼻血なら出たことあるが、吐血をするというのは今まで、想像もできなかった。
俺は尋常ではない痛みに腹を抑えて、地面を、のたうちまわっていた。俺の考えが浅はかだった。これはデスゲームなのだ。コンティニューなぞ存在しない。そんな中で俺は、次のことを考えずに、集中せず遊んでいたんだ。これはもし相手が刃物などの凶器を持っていた場合シャレにならない。
スライムが近寄ってくる。俺を溶かして食うつもりなのか酸性の何かを撒き散らしながらこちらに向かってくる。
俺は慌てて飛び上がる。そして少し距離をとる、痛みのおかげで少し冷静になった。スライムの突進も距離をとっていれば予備動作を見て紙一重で回避することができるかもしれない。
そう思っていた時期が俺にもあります。
ニ撃目もくらってしまった。いいわけをするならスライムの突進が早く、予備動作から8方向全てに突進が可能であったからである。俺は予備動作に入ってから急いでスライムの右側の草むらへと移動したが、脇腹にモロに突進を受けた。
俺はまた血を吐き出し腹をおさえる。強烈無慈悲な痛みが俺を襲う。その痛みが俺の意識を吹っ飛ばそうとするがギリギリ持ちこたえた。もってあと1,2回だろうか。追撃を狙い、予備動作に入っていたスライムの突進を、しゃがむことによってギリギリに回避した俺は、2m近くの距離をとった。
視界がブレている。もしこの戦闘に勝ったとしてもその後に、またモンスターが出たら今度こそ終わりだろう。スライムがまた予備動作に入った。周りの草はスライムが撒き散らした、酸によって、もう溶けてしまっている。俺の服も溶けている部分が多い。
俺はスライムが飛んでくるであろう方向に、右回し蹴りをした。これしか方法は無いと思ったからだ。初戦それは初心者の浅はかな考えだが、その考えは功を奏した。スライムは蹴りによってすっ飛んで行ったが硬化していた球体を蹴ってしまったため激痛が右足に走る。
多分折れたなこりゃ、万事休すか…
俺は多分折れてしまって動かなく激痛が走る右足をひきずりながらスライムが飛んで行った方へ行って見る。
幸いにも飛んでいったスライムの周りの草は溶けていたので見つけやすい。なぜ逃げなかったかというのは完全な死を確認して、安心したかったからである。
俺はまたもや、浅はかだった。倒せるわけはないのだ。全力のかかと落としをして無傷だったスライムがフラフラの回し蹴りで倒せるわけない。
俺はスライムの飛んで行った方へと近づく。何か黒いシルエットが見える。
倒したのか? あれはドロップアイテムだというのか?
小さいモンスターから大きなドロップアイテムを手に入れることなどゲームでは何度もあったが本当にそれを見るとなんかシャクに触る、ツッコミたくなる。でも今は突っ込むことも乗り気ではない。
死んだと思ったスライムを見た時に絶句した。ドロップアイテムだと思ったものが動いていたからである。
そう。大きな『ゴキブリ』だった
縦2m横160cm高さ90cmくらいの大きさだ。虫嫌いが見たら失神してしまうだろうというくらいの大きさだ。正直気持ちワルイ。吐くのを我慢して臨戦体制に入る。だが戦うことはできそうにない。なぜなら満身創痍だからだ。スライムを捕食しているゴキブリが気づかないようにそろりそろりと交代をする。
パキッ
木の枝を踏んでしまった。これはゲームでは、お約束なのだがリアルにあったら絶望しかない。
ゴキブリっぽい怪物の触覚が動く。こちらに気づいてしまったようだ。カサカサと気持ち悪い動きをしてこちらへと向かってくる。俺は死を覚悟した。
その瞬間、炎を纏った矢がゴキブリに飛んで行った。一撃でゴキブリはひっくり返って絶命した。
誰か助けてくれたのだろうか、これが夢だったらいいのにな、
俺はそんなことを考えながら極度の緊張と恐怖からの解放によって倒れて気を失ってしまった。
まさに一寸先は闇、いつでも用心は大切なのだ。