表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクマで恋してる  作者: 時雨瑠奈
6/10

第六話 悪魔少女の決意

 大森悠は今日は早めに学校に来ていた。

リリンが今日こそ日向先輩と悠を結ばせて

見せます!と大張きりで家を飛び出して

しまったからだ。

 全く、と思いつつも、悠はリリンの

一生懸命な様子に自分も力をもらえる

ような気がした。

 彼女はいつも一生懸命だ。自分ではない、

しかも家族でもない赤の他人であるはずの

悠のために。

 悠を使い魔とするために契約したから

という理由ももちろんあるだろうが、それ

だけではない気が悠にはした。

 きっと、彼女は誰に対しても一生懸命

助けようとするのだろう。

「悠、今日の作戦はですね!! 日向先輩に

ぶつかって距離を縮めよう作戦です!」

「……嫌な予感しかしないんだが」

「大丈夫ですよぅ! リリンを信じて

ください!!」

「お前の事は信じてもいいけど、さんざん

失敗するお前の作戦なんか信じられ

ないんだよ!!」

「うぅ~」

 リリンが不満そうに悠を涙目で睨んだ。

悠ははぁっと小さくため息をつく。

と、バットタイミング(リリンにとっては

グットタイミング)で、日向先輩と清水

先輩が話し合いながら通りかかってしまった。

 口ゲンカをしているうちに結構時間が

経っていたようである。

「悠、ゴーです!」

「やめろおお!!」

 リリンに突き飛ばされた悠は真っ直ぐに

日向先輩の元へと向かって行った。

 日向先輩が突然の事に「きゃっ!?」と

声を上げ、清水先輩があ?と言わんばかりの

鋭い視線を向ける。

 数分後、鈍い音と共に悠は日向先輩に

激突してしまった。両方弾き飛ばされる

ように後方に倒れ、いたたと痛みに呻く。

「うわ!? 悠、大丈夫か!?」

 ぎょっとなった栞太が声をかけて来た

けれど、大丈夫な訳ないだろと思った悠は

口を開かなかった。

 清水先輩が日向先輩を抱き起している。

「日向、怪我ない!? ――大森、てめえ

大概にしろよ!!」

(な、何で僕が怒られてるんだよ……)

 突き飛ばしたリリンが悪いのにと思い

つつも、悠は清水先輩にすみませんと

謝るしかなかった。

 サイドテールの金に染めた髪を、まるで

蛇のように逆立てる清水先輩は少し怖い。

 日向が乱れたセミロングの髪を手櫛で

とかしてから口を挟む。

「実里、私は怪我もしてないし、そんなに

怒らないで? 大森君だってわざと私に

ぶつかった訳じゃないんだから」

「まあ日向がそういうなら許してやる」

 二人がいなくなった後、悠が黙って睨み

つけるとリリンは困ったように眉を八の

字にしていた――。



 お昼休み。

リリンが次の作戦は、と言いかけるのを

悠は遮った。悲しげな顔をする彼女の目を

しっかりと見て説明する。

「悠、リリンは必要なくなったん

ですか……?」

「違う。お前見てたら、僕も頑張らなく

ちゃって思ったんだよ。まだ、僕は一人で

何も行動を起こしてない。自力で告白しな

きゃならないんだ、日向先輩に」

 最初はただ利用するだけのつもりだった。

しかし、リリンはどこまでも他人なはずの悠に

一生懸命で、このままでは駄目だと悠は思った

のだった。

 もう一方的に契約を破棄するつもりはない。

彼女の使い魔となるためにも、日向先輩と結ば

れるためにも自分で告白しようと悠は思った

のだった。

「安心しろよ、契約は守る。僕が告白して日向

先輩と結ばれても、それを誘導してくれたのは

リリン、お前なんだからな」

「……悠」

 リリンは嬉しさと悲しさが混じった複雑な

表情をしていたのだが、悠にはその表情は

見えていなかった――。



 ……三十分後。

告白しようとラブレターを書いたものの、悠は

勇気が出せず図書館で本を読む日向先輩に近づく

事すらできなかった。

 と、何の偶然か、唐突に日向が立ち上がり

悠の所へ歩いてきた。

「ここ、隣いい? 大森君」

「え? あ、は、はい、どうぞ!!」

 何故日向先輩が自分の所に来たのか悠は訳が

分からなかった。どきまぎしつつさっきまで

彼女が座っていた場所を見ると、不良っぽい

見た目をした先輩が座って騒いでいた。

 きっとうるさくて勉強に集中出来なくなった

ので、こっちに移ってきたのだろう。

(こ、告白しなきゃ、日向先輩に……!)

 せっかくのチャンスなのに、悠はなかなか

動く事が出来なかった。勉強をしているフリで

広げたノートの下には日向先輩への想いを

つづった手紙がある。

 読んでくださいと差し出すだけでいいのに、

どうしても勇気が出ない。震える手をなんとか

抑えようと泣きそうになった時、失敗しても

失敗してもめげずに作戦に挑んでいたリリンを

思い出した。

 すぅっと気持ちが落ち着き、悠は顔を上げて

日向先輩を見つめる。

「――あ、」

「日向! そろそろ教室に帰らないと授業に

遅れるよ?」

 あの! これ、読んでください!! 

そう続けるはずだった。しかし、いきなり日向先輩

へと投げられた男の声に、悠の声は舌が貼りついて

しまったかのように出なくなる。

 整った顔立ちをした、艶のある黒髪と漆黒の

黒曜石のような瞳をした男性は、三年の月島翔真つきしましょうま

先輩だった。

 女性にかなり人気で、悠のクラスの女生徒達も

かっこいいだの憧れるだのきゃあきゃあ言い合って

いたのを耳にした覚えがある。

「翔真君、ありがとう。今行くわ」

 二人が隣にいるのがなんだか自然に思えた。

まるで、恋人同士みたいで――。

 悠は震える声で日向先輩に問いかけた。

「二人は、恋人同士なんですか……?」

「ええ! 大森君にはまだ紹介していなかったわね、

三年の翔真く――翔真先輩よ。優しくて穏やかで

とってもいい人なの」

「ひ、日向そんなに褒めないでくれよ……」

 いかにも幸せそうな顔で日向先輩は語っていた。

月島先輩が顔を赤らめながら彼女の言葉をさえ

ぎろうと腕を掴む。

 見つめあう二人の間には何者も入れそうには

なかった。

「お、おめでとうございます」

 悠は手紙をこっそり握りつぶした。

今の彼女に、こんな手紙を渡せる訳がなかった。

 泣きたいのをこらえ、必死で笑顔を作る。

恥ずかしそうながら、嬉しそうに日向先輩は

微笑んだ。

「ありがとう、大森君」

 悠はふらつく足取りで図書館を出た。

夢だと思いたいが、ずきずきと痛む頭がそれを

否定していた――。



「悠、どうでしたか!?」

 リリンにいきなり飛びつかれ、悠はため息を一つ

吐き出した。その様子を見てリリンは何かを感じ

取ったらしい。

「駄目、だったんですか?」

「――日向先輩、彼氏いた。俺より大人で、俺

より優しそうないい人だった。俺じゃ、駄目

だったんだよ」

 自嘲するような笑みを浮かべながら悠は

教室の自分の椅子に座った。

 リリンがルビー色の瞳に涙をためて悠を

睨む。

「そんな事、そんな事ありません! 悠は

とっても優しくて、大人で、すっごく

いい人なんですから!!」

「な、何でお前が泣くんだよ!?」

 泣きたいのはこっちの方だった。

目からぼろぼろと涙を零すリリンをもてあまし、

悠はもう一度ため息をつく。

「リリン、泣くなよ。仕方ないだろ!? 

 日向先輩には他に好きな人がいたんだから!

俺じゃなくて、他の人が好きだったんだから!!」

「……いいえ、まだ方法があります。まだ、

あるんです」

 リリンが唐突に顔を上げた。

その顔に並々ならぬ決意を感じ取り、思わず悠は

椅子から立ち上がってしまった。

 いつもの子供っぽいリリンじゃない。

初めて、悠はリリンが悪魔だという事を感じ取った

気がした。

「リリン、悠のために頑張りますから!」

「お、おい、リリン! リリン!?」

 にっこりと微笑むと、リリンは黒い翼を広げて

空へと飛び降りて行った。

 きっと家に帰ったのだろうと思った悠は、すぐに

オネエ教師こと郷田聡に嘘をつき、早退届を受け

取って家に帰る事にした。

 「あらん、風邪には気をつけなきゃ駄目よう?」と

心配そうに言ってくれたオネエ教師に胸が痛まない訳

ではないが、今はリリンの事が心配である。

 家に帰りつくと悠はリリンを探したけれど、彼女の

姿はなかった。

 自分が家につく時間の方が早かったのだと思い、

しばらく待っては見たが、リリンは夜になっても、

朝になっても帰って来なかった――。


 日向先輩に告白出来ずに振られて

しまった悠。しかし、そんなショックを

受ける悠を見ていたリリンは悠のために

とある決意をします――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ