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アクマで恋してる  作者: 時雨瑠奈
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第五話 悪魔少女とのお出かけ

 大森悠は今日は部屋にリリンを隠していた。

理由は簡単、今日は母親が非番なため家にいる

からである。

 さすがに、母親にいろいろ説明するのは面倒だし、

リリンが追い出されても困るので隠し通すしかない。

幸い、母親はあまり家事が得意な方ではないので、

部屋に突入される心配は全くといっていいほど

なかった。

 部屋に入る時は必ずノックをしてくれるので、

もし部屋に母親が来る事になっても猶予はある。

 悠が朝食のために下へ降りていくと、母親は

どこか嬉しそうに台所に立っていた。

 いつもは時間がある時は面倒そうにトーストを

齧りながら、コーヒーを飲みつつ新聞を読んでいる

というのに珍しい。

「悠、お早う。今朝ご飯作るわね」

「母さん、早いね」

「今日はお父さんが帰ってくるんだもの。早起き

して作っておいてあげないとね」

 ああ、と悠は理解して食卓の椅子に座った。

要するに息子である自分の分は父親のついで、

のようだ。

 悠の母親、大森咲絵おおもりさきえは髪を後ろで

一つに縛った眼鏡をかけた女性だった。

 隙のないキャリアウーマンな女性で、自分にも他人

にも厳しい。

 悠は幼い頃からあまりこの人に甘えさせてもらった

覚えが一度もない。覚えていないほど幼い頃は分から

ないが。

 それでも悠は母親に嫌われているなどとはもっと幼い

頃からであっても一度も疑った事はなかった。

 厳しくするのは自分のためだと分かっていたからだ。

それに、毎日苦戦しながらお弁当を作ってくれたり、

体育祭や学園祭とかはなんとか仕事の調整をして無理に

でも出てくれる母だった。今だに単身赴任中の父とは

仲が良く、たまに父が帰ってくる時はデートに行って

いるようだ。

 今日も出かけるから後はよろしくと事前に悠に

言っていた。いつも無表情というか、表情を作る事が

苦手な彼女の顔は知らない人が見ると不機嫌に見える

らしいが、悠には母親が浮き浮きしているのが手に

取るように分かった。

 オムレツを作っているらしく、バターと卵の焼ける

いい匂いが漏れてくる。

 オムレツは悠の父、大森和也おおもりかずやの大好物だ。

彼女がどれだけ気合が入っているのかが分かると

いうものであろう。

 いや父親は彼女が作ったものならなんでも食べる人

だけど。対して上手くもない母親の料理を「世界で一番

上手い!」と豪語する人でもある。

 俺のかみさんがこの世で一番美しいとか言っては

いろんな人を辟易させるのを悠は幼い頃からよく

見ていた。

 いつ帰ってくるんだろう、早く部屋に戻らないと

あいつが何かしでかしてないか心配だ。

 そんな事を考えながら悠がやきもきしていると、

玄関の扉が勢いよく開いて悠の父親和也が

入ってきた。

 かなりの勢いでリビングまで駆け寄って来たかと

思うや、いきなり妻である悠の母親を抱きしめる。

「ただいま、ハニー。元気にしていたかい?」

「ええ、ダーリン。あなたも元気そうでよかったわ」

 息子の前でダーリンとかハニーとか言わないで

欲しいんだが、と言わんばかりに悠が呆れたような

視線を飛ばすがバカップル――いやラブラブ夫婦は

気づいてくれないようだ。

「……母さん」

「何よ悠。お父さんとの時間を邪魔するつもり

なの?」

「別に邪魔はしないけど。卵焦げるよ」

「きゃ――っ! 火かけっぱなしだったわ!!」

 慌てて母親がキッチンに駆け込んでいった。

すぐに戻ってきたが、やはりと言うべきか焦げていた。

 しかも変な風に卵が固まって形が歪んでいる。

とてもオムレツとは呼べないような、呼んだらオムレツの

冒涜になるような代物だった。

 いり卵風にも出来なかったようである。

「……」

「……」

「……」

 三人の間でしばらく沈黙が流れた。

と、動いたのは父親である。まだあつあつのオムレツ

もどきをちぎって口に入れると微笑んだのだ。

「うまいよ、咲ちゃん。君の料理は誰が何と言おうが

最高さ」

「嬉しいわ、和ちゃん!!」

 悠ははぁとため息をつくと一人椅子に座った。

同じようにオムレツをちぎって口に入れてみるが、

その顔が嫌そうにしかめられる。

 ……甘かった。これはスイーツかよ!?とツッコミを

入れたくなるくらいの超絶甘いオムレツだった。

 悠の甘いもの嫌いは父親からの遺伝だ。

わざとこう作った訳じゃなくて、きっと砂糖の量を

間違えたのだろう。だからあの父親にとってこれが

美味い訳はない。

 悠が黙って父親に視線を向けると、これ以上も

なさそうな黒い笑みが帰って来た。

 まずいなどと言ったらどんな目に遭わされるか

分からないので、悠は仕方なくオムレツを

平らげる事にした――。



 口の中が甘い味でいっぱいだった。

麦茶を二杯も飲んだのにまだ味が薄れない。

 悪気がないだけ達が悪いんだよなと思いつつ

悠は部屋に戻った。

 ちなみに、母親と父親はラブラブな雰囲気の

ままデートに出かけてしまったのでもう

大丈夫である。

「悠、お帰りなさい! 大丈夫でした……?」

「ああ、お前の事はバレなかったよ。うちの

両親いまだに仲が良すぎるくらいで息子の俺

なんか目に入らなかったみたいだしな」

「でも、仲が悪いよりいいんじゃないでしょうか」

「まあ確かにな。お前、今日どこか行きたい所

あるか?」

「えっ?」

 リリンはしばしルビー色の瞳を瞬かせていたが、

やがて目をキラキラさせると悠に飛びついた。

 うわっ、と悲鳴を上げた悠が転びそうになる。

「お、おい、離れろよ……!」

「ありがとうございます悠! 嬉しいです! 私、

行きたい所いっぱいあるんです、でも、こっちの

お金もないし一人では行けなそうなので困って

たんです!!」

「わ、分かった。嬉しいのは分かったから、

離れろって」

 リリンはハッとなると悠から離れた。

その顔が何故かひどく赤い。悠は首をかしげながらも

もう一度訪ねた。

「お姉様がよく人間界に入り浸っていたんです。

映画館とか、遊園地とか、図書館とかいろいろな

所に言ったって言ってました! リリン、映画館と

遊園地に行きたいです!」

「映画館、か……」

 そういえばしばらく映画なんて見に行って

いなかった。一人で行くのもなんかなと思うが、

両親は忙しくて一緒に行けないし、一応友達と

思ってやらなくはない栞太は映画館で騒ぐため除外。

 一度一緒に行ったら、(ちなみに見たのはホラー)

わーっとかぎゃーっとか叫びだして周りの人に何故か

悠が睨まれたという事があり、二度と悠は栞太を

連れて映画に行く事はなかった。

 携帯電話のネットで調べて見ると、アニメや

ホラー映画や恋愛映画などいろいろな情報があった。

 普段の悠ならホラーを選ぶのだけれど、一緒に

覗き込んでいたリリンが恋愛映画が見たいと言うので

それに決定した。

 遊園地はまだ空いていないため、先に映画を見に行く

事にする。歩いて近くの映画館に向かうと、初めての

場所にリリンはかなりはしゃいでいた――。



 塩味のとチョコレート味のとキャラメル味のポップ

コーン(サイズはS)を買い与えた悠は、くれぐれも

映画の鑑賞中に声を出すなと厳重注意した。

 悠の近所の映画館は何故かポップコーンの種類が

豊富である。S・M・Lとサイズがあり、小さい

サイズのSは一番安い。

 ジュースはオレンジジュース(サイズM)を

買ってやった。

 ちなみに悠は塩味のポップコーンのMサイズと、

ブラックコーヒーのMサイズを選んでいた。

 悠は恋愛映画にはあまり興味がなかったので、

リリンの様子横目で見ていた。

 リリンは本当にころころとよく表情が変わる。

顔を真っ赤に染めたり、ルビー色の目からぼろぼろと

涙を零したり、声を上げないように気を付けながら

笑ったり、眉を吊り上げながら怒ったり。

 映画などを見ても悠はあまり表情を変えずに

冷静に見えているので、その反応がどこか新鮮に

思えた。

 チョコレート味とチャラメル味のポップコーンは

甘党だけあってかなりリリンは気に入ったらしい。

 映画館を出る頃にはリリンはかなり上機嫌に

なっていた――。



 映画が終わると開園時間が近づいていた。

バスを乗り継いでリリンと共に遊園地へと急ぐ。

遊園地に初めて来た子供の様に(というか実際

初めて来たんだろうが)リリンは目をきらきら

させていた。

 そういえば悠は遊園地に来るのも久々である。

栞太と男同士で行くのもなんだし、恋人はまだ

いないし日向先輩をデートに誘うのも恥ずかしい

し、両親は行くなら二人だけで行くし連れて行って

くれと言うのもなんだか子供っぽくて嫌だしでここ

数年は来ていなかった。

 フリーパスチケットを二人分購入し、入園を

果たす。

「何に乗りたい……?」

「あれ! あれに乗りたいです!」

「げっ!」

 リリンが選んだのはジェットコースターだった。

実は悠は苦手である。小さい頃乗ったはいいが泣き

叫んだ覚えがあり、苦い顔になった悠だが、リリンが

乗りたい、あれに乗りたいと目が言っていたので

諦めた。

 怖いからやめようと言うのもプライド的に嫌だし。

泣く泣く一緒に乗ると、リリンはきゃーきゃー叫び

ながら喜んでいた。

 幸い青ざめて悲鳴を上げてしまった悠の事には

気付いてなかったようである。

 その後もリリンはティーカップやメリーゴーランド

などにも乗りたがり、悠はとんでもない目に遭った。

 ティーカップではリリンが調子に乗ってハンドルを

回しすぎたので目が回って吐きそうになり、メリーゴー

ランドは悠がいいと何度も言ったのにも関わらず一緒に

乗りましょうよ!と押し切られ、乗ったはいいが

周りの人に見られてしまいかなり恥ずかしかった。

 でも、リリンがかなり嬉しそうだったのでまあ

いいか、と悠は思った――。



 リリンは悠に感謝しながら遊園地とか言う場所を

楽しんでいた。悠はぶつぶつ文句を言いながらも

優しかった。

 ティーカップとメリーゴーランドでは吐いたらどう

するんだ!とか、お前のせいで恥ずかしかったんだぞ!

とかって怒られたが。

 アイスクリームを一緒に食べたり、お前がどこに行くか

分からないからと手をつながれたりまるでデートみたい

だった。

 ハッとなり、リリンは自分がデートだなんて思って

しまった事に怒りを抱く。

悠が好きなのは日向先輩ただ一人だ。

 自分なんか好きになる訳がない。っていうかなっては

いけない。悠を好きになんかなっちゃ駄目なのだ。

(悠が好きなのは、日向先輩なんですから)

 リリンは自分の中の興奮した気持ちが、一気に冷める

のを感じた。まるで、冷たい水をいきなり振り掛け

られたような気分だ。

「悠、今日はありがとうございました。もう、帰り

ましょう?」

「いいのか? ああ、そういえばもうそろそろ母さん

達が帰って来るな、帰るか」

 帰るぞ、と手を差し出されたが、リリンは迷子になんて

なりませんからと手を取る事はなかった――。





 悠とリリンがお出掛けします。

悠の両親が初登場しました。

 優しくしてくれる悠に魅かれ

始めてしまうリリン。しかし、

悠が好きな相手がいると知って

いる彼女は好きになってはいけない

と思ってしまいます。

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