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アクマで恋してる  作者: 時雨瑠奈
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第一話 唐突な出会い

 この作品は雪宮鉄馬さんから

いただいた原作案を小説にした

物です。雪宮さんからはきちんと

許可をいただいています。

 はあっ、と一人の少年がため息をついた。

短い黒髪を持つ、銀縁の眼鏡メガネをかけた少年である。

 体格は小柄でいかにもお勉強が出来そうなタイプという

べきか。

 銀色のプラスチックの弁当箱の中に入っていた、肉団子

を青い箸でつつきながらの動作である。

 彼の名前は大森悠おおもりゆうという。

「悠、どうした? 元気ねえぞ!!」

 隣で一緒に弁当を食べていた短い茶髪の少年、菅野栞太(かんのかんた)

に肩を叩かれた悠はわずらわしそうに眉をひそめた。

「お前には関係ないだろ」

「なんだよ~。俺と悠の仲じゃん!」

「――いつ俺がお前とそんな仲になった」

 グサリと甘い卵焼きに箸を突き刺すと悠はそのまま口に

放り込んだ。

 甘い物があまり好きではない彼はチッと舌打ちする。

またか、と悠は思った。

 何度も何度も甘い物は好きじゃないと言うのだけれど、

母はいつもそれを忘れて甘い卵焼きを作るのだ。

 まあ今回のように甘ったるい味付けでも、ちゃんと作れ

ていればマシなのだが。

 彼女の味付けは極端きょくたんなのだ。

ちなみにここは学校の校庭の桜の木の下だった。

 ミンミンとセミが鳴く声がよく聞こえるので不快だが、

一番涼しい場所でもあるので仕方がない。

 ちらっ、と悠の視線が彷徨さまよった。

ここから離れた別の桜の木の下で、友達であろう人達と共

に、楽しそうに食事をする女性の姿があった。

 薄い栗色がかったセミロングの黒髪に、ぱっちりとした

黒い瞳が黒曜石を思わせてとても綺麗きれいでありながら可愛かわい

らしい。

 おっとりとした雰囲気ふんいきを感じさせる女性だった。

いつも美味おいしそうな弁当を食べている様子をよく悠は見る。

 友達との話が聞こえた所によると、あの弁当は彼女自身

が手作りしているらしかった。

 彼女の名前は城崎日向(きのさきひなた)

中学三年生で、悠や栞太とは一個上である。

 時折ときおり微笑む桜色の唇に、思わず目が行ってしまった悠の

顔が思わず赤くなった。

 栞太は気づいていないようだ。

「日向のお弁当っていつも美味しそうだよね~。日向が作

ってるんでしょ? えらいよね」

「偉くなんてないよ。お料理の勉強にもなるし、お母さん

だっていろいろ忙しいんだし……」

 サイドポニーというのだろうか。

明らかに染めたと思われる、金の髪を右側で一つに結った

女生徒に褒められた日向先輩の頬が、うっすらと赤く染ま

った。

 ここからでも弁当の様子がよく見える。

ほかほかと湯気を上げる、ひじきと大豆と糸こんにゃくの

入った炊き込みご飯に、甘くもなくしょっぱすぎもしない

いい塩梅あんばいの卵焼き(彼女の友達がそう言っていた)、パリ

パリに焼けて皮まで美味そうなサケはきっと絶品なのだろう。

 からかわないでよと言いながら取った、ピンク色の水筒

には、あの日差し出された物と同じ冷たい麦茶が入って

いるのだろうか。

「おい、おいってば悠!」

「――うわっ!?」

 さっきまでしょっぱすぎると評判の肉じゃがを、夢中で

食べていたはずの栞太がいきなり揺さぶって来た。

 悠は思わずおどろいてしまい大声を上げてしまう。

手から箸が滑り落ちるのが見えたのか、くすっと日向先輩

に笑われてしまった。

 カッと赤くなりながら悠は立ち上がる。

「――箸洗ってくる」

「お~急げよ。昼休み終わっちまうぜ~」

 悪びれもしないでそう言う栞太にすっかり腹を立てた悠は、

イラ立ちをおさえようともせず学校内に入った――。


(――くそっ!)

 先輩に笑われてしまった。

悠の頭の中はずかしさと、デリカシーのない栞太への怒り

でいっぱいだった。

 栞太に悪気がないのはわかっている。

それでも、好きになってしまった先輩に笑われてしまった

のだからなかなか怒りは消えない。

 悠は日向先輩の事が好きだった。

数日前、一夜漬けの勉強をしてふらふらになり、しかも日

射病になったあの日。

 見も知らぬ後輩である自分を彼女は優しく介抱してくれ

たのだった。

「大丈夫? えっと――大森君だったかしら? 一年生の時

の入学式で代表の挨拶あいさつをやっていたわよね?」

「え、えっと、あの……」

 冷たい麦茶が入った水筒のフタを差し出され、悠は突然の

事に上手うまく返事をする事が出来ずただうつむいていた。

 確かに、自分は入学式の時主席入学を果たし新入生代表

として挨拶をした事があったけれど、どう返事をしたら

いいのかがよく分からない。

「あんたさあ、日向にお礼くらい言ったら? わざわざ倒

れたあんたをここまで運んで来たの日向なんだよ?」

 ちょっとこわそうな雰囲気の先輩におこられた。

日向先輩がいいから、と口を出す。

 やっと悠はつっかえながら返事が出来た。

心配そうだった日向先輩の顔が、少し安心したようにほころぶ。

「あ、ありがとうございます……」

「お礼はいいけど、今度から気を付けないと駄目ダメよ」

「は、はい……」

 自分なりに怖そうな顔を作りながら(むしろ可愛いが)自

分をさとす彼女に、悠はいつの間にか心魅かれていたのだった――。


 悠はすねたような顔をしながら、水飲み場で箸を洗い始めた。

 と、何者かに肩を叩かれて振り向く。

てっきり栞太かと思ってにらみつけるように振り向いた悠は、

そこに短い銀色のツインテールにルビー色の瞳をした、可愛ら

しい少女がいるのに気付いた。

「お、お前誰だよ!?」

「リリスとルシファーの娘、リリンです!! これでも悪魔

なんですよ。使い魔になる人を探してるんです、使い魔にな

ってくれませんか?」

「は? リリス? ルシファー? 悪魔? 使い魔?」

 この少女は勉強しすぎで頭がおかしくなったのだろうか。

もしくは中二病をわずらっているのだろうか。

 ちなみに、分からない人のために説明しておくと、中二

病とは妙に長い技名や人物名を考えたり、普通の人間なの

に「自分は悪魔の化身だ」みたいな事を言い出す痛い人の

事だったりする。

 それが悠のこの少女――リリンへの最初の評価だった。

悠は漫画やアニメなどを全く見ないためにリリスとかそう

いう人物の知識さえもなかった。

「――まずは病院に行こうか。大丈夫だ、いい精神科をよく

知っているから」

 優しく頭をなでながら微笑ほほえむ悠に、リリンは怒りを爆発

させた。

 悠はこれ以上もなく優しい笑みを浮かべている。

「頭おかしくないです! 本当に悪魔なんです!!」

「……中二病の方か」

「中二……?」

 悠はしたり顔でそう言っているが、実は漫画やライト

ノベルやゲームやアニメが大好きな栞太から聞いた事なの

で本当はそんなに詳しい訳ではなかった。

 リリンは中二病の意味が分からないのか首をかしげて

いる。

 でも、悠が信じていないというのはなんとなく分かった

ようだ。

「とにかく、私は本当に悪魔なんです! これが証拠です

!!」

 キッと悠を睨みつけるや、いつもは隠している悪魔の尻

尾と羽を出現させるリリン。

 悠の目が驚きに見開かれた。

 眼鏡を取り、ハンカチを取り出して拭いてからもう一度

かけ直す悠だが、幻ではないのでリリンの尻尾と羽はその

ままだった。

「ま、まさかお前、本当に悪魔なのか……?」

「だからそう言っているじゃないですかぁ……」

 ルビーのようにきらめく瞳から涙が零れ落ちそうになっ

たので悠はあわてた。

 自慢ではないけれど彼は生まれてこの方女の子と親しく

なった経験がないので、女の子の涙が苦手だったのだ。

「お、おい泣く事はないだろ!?」

「あなたが信じてくれないからですぅ……」

「信じる! 信じるから泣くなよ。な?」

 悠が慌てて言うとリリンはにっこりと花の蕾が開くか

のように笑った。

 頼りないほど細い手を悠に差出し、もう一度聞く。

「使い魔になってくれませんか?」

「じゃあ日向先輩と僕を恋人にしてみろよ。その願いを

叶えてくれるのなら使い魔にでも何でもなってやるよ」

「契約成立ですね!!」

 くるくる回りながらはしゃぐリリンに悠は馬鹿バカな奴、

と思った。

 誰が使い魔になんてなるものか。

願いがかなったら一方的に契約破棄をしてやる。

 そんな事を悠が考えているとは知らないリリンは、銀色

のツインテールを揺らしながらくるくる回り続けていた――。



 学園ものとファンタジーを

融合させたお話です。

 これからリリンと悠の本格的な

活躍が始まります。

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