第五話 疾走奮闘無謀 (後)
後編です。
「…っ!?」
苦しそうにベッドに横になっているディーは、時折苦しそうに身をよじる。
「頑張ってディー…、ツカサさんが、ツカサさんが必ずお薬持ってきてくれるからね?」
リッドはディーの小さな手を握りながら励ますように声をかけながら、額に乗せているタオルを取り替えた。
「おか、あさん…」
「ディー、大丈夫?」
「おむねいたい…、からだ、あついよ」
「ディー…。大丈夫よ、今ツカサさんがお薬取りに行ってくれてるからね?」
「おにいちゃん、いないの?」
司がいないことを聞いて、ディーは悲しそうに顔を歪め泣きそうな表情になり、それを見てリッドは胸を刺されるような痛みを覚える。
「ディーのためにお使い行ってくれてるのよ? ディーはいい子で待てるよね?」
「いいこにしてたら、おにいちゃん、またあそんで、くれるかな?」
「も、ち…、ろん、よ」
「なら、いいこに、してるね」
ディーはそれだけ言ってまた眠ってしまった。リッドは零れそうになる涙をこらえ、優しくディーの手に自分の手を重ねて優しく握り締めるのだった。
「ツカサさんどうかご無事で…」
その一方で、娘のためとはいえ司を死地に赴かせたことをリッドは後悔していた。普通に手に入れようと思えば到底手に入れることはできない値段のため、必然自分達で手に入れてくるしかないのだが、ドラゴンから血を手に入れるのはそれ以上の難題なのだ。
「女神ミハイエル様…、どうかツカサさんをお守りください…」
第五話
疾走奮闘無謀 (後)
「はぁァァァァァァァっ!」
『うむ、良い一撃だな』
そう言いながらもドラゴンは司の一撃を軽くいなす。だが、司にとっては渾身の一撃だったのだが、それをあっさりと防がれてしまったことに多少なりともショックを受ける。
しかし、相手が自分よりも強いなんてことは初める前からわかっていたことのため、直ぐに気を取り直しどうすれば相手に攻撃が届くかを考える。
(もっと速く…、もっと強く、もっと…、もっと…、もっと!)
司は心のなかで雄叫びを上げる。自分の不甲斐なさに…、自分の弱さに…、大事な命を助けることができないことに。
司の人生の中でこれほど何かを心から望んだことはなかっただろうと思えるほどに、司は強く望んだ。
大切なモノを守れる力を、と。
『ん?』
そのことに気がついたのは司ではなくドラゴンだった。突如司の動きが良くなってきたのだ。しかもそれは一時的なものではなく、徐々に、徐々にその動きを良くしていった。
『魔力による身体強化か、これはまた珍しいものを使う』
そしてドラゴンには司がなにをしたのか直ぐに理解できた。
魔力による身体強化。
司は自分の魔力を外に向かって放出するのではなく、体内を巡らせて自身の身体能力を大幅に飛躍させたのだ。
この、魔力による身体強化は、魔法的には高等魔法に分類される。というよりも、実力のない魔法使いは身体強化をするよりも、魔法を使ったほうがパーティに貢献できるからで、身体強化が必要になるのはある程度以上の実力を持った魔法使いでないと意味が無いからだった。
それでも、そう簡単に使えるものではないため、高等魔法として分類されているのだ。
(体が軽い…、今までよりも思うように動く! でも、でもまだ足りない!)
司の中で身体強化が最適化されていく。これは司の持つスキル【賢者】の効果であり、同じ事を繰り返すことにより、徐々に体になじませているのだ。
『おもしろいことをするな人間よ』
「あなたに拳が届くためなら俺なんだってやってみせる!」
【ふふっ、わたしたちもおうえんしてるわ】
ドラゴンに向かって司が叫んだ時、司の耳にドラゴンのものではない声が聞こえてきた。
【がんばって、みんなおうえんしてるわ】
『これはまた、精霊共が集まってきておる』
「精霊? 精霊が俺に話しかけてくれてるのか?」
【そうよ。あなたのこえがきこえたのよ。だからがんばって】
精霊がそう言うと、司の体を白い光が覆っていく。その光を見てドラゴンはわずかだが眉をひそめる。
「ありがとう、これで届く…。いや、絶対に届かせてみせる!」
司は一旦ドラゴンから距離を取ると、一旦呼吸を落ち着かせ気持ちも落ち着かせる。そしてこちらを見ているドラゴンに視線を向けゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「次で決めます。今俺にできる最高の攻撃をあなたに届かせてみせます」
『そうか』
司は自分の体の隅々まで魔力を行き渡らせるイメージを浮かべる。自分の中にあるすべての魔力を身体強化に送り込む。
「いきます」
そう、司が言葉を発した次の瞬間に、周囲に何かが破裂したような音が響き、司の姿はドラゴンの眼の前にあった。
その動きはドラゴンにしても完全に捉えることができないほどに速く一瞬防御が遅れてしまった。だが、それでも司の一撃はドラゴンの体に届くことはできず片手で防がれてしまう。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
『!?』
だが、司の一撃はそれで終わることなく、司は空中に滞空しながら次々に拳を繰り出していく。そして、何十度目かの連撃の後、ついにドラゴンの手は攻撃を捌ききれず後ろに弾き飛ばされた。
「いっ、けー!」
『ふん!』
「『!?』」
司の渾身の一撃がドラゴンの胸に決まり、それと同時にドラゴンが気合を入れた瞬間に、司は部屋の端まで吹き飛ばされていた。
「く、そ…」
司の手には確かな手応えがあった。だが、それゆえに相手にダメージを与えれていないことに気が付き、魔力の使いすぎでだるくなり、無理な身体強化で悲鳴を上げている体を起こそうとする。
『もうやめておけ、人間』
「俺は、ディーを、、俺は、助ける…」
だが、司の意識は朦朧としており気絶していないのがおかしなくらいに酷使されていた。
『まこと、恐ろしきは人の執念、か…』
【これいじょうあるじさまをいじめないでー!】
司に近づこうとするドラゴンの前になんたいもの精霊が集まり、盾になろうとする。
『いじめわせんよ。それに勝負は儂の負けじゃ』
そう言ってドラゴンが精霊たちに見せた右腕は、一枚だけ鱗が割れておりそこかあ少しだけちがにじみ出ていた。
『人間に傷を付けられるなど、何千年ぶりかのぉ。司とやら、これを持って帰るがよい』
そう言うとドラゴンは自分の血を魔力でつつみ圧縮する。そして、次に手を開いた時にはそこに小さな宝石のような赤い玉が握られていた。
「ぜったいに、かえる、んだ…」
ドラゴンから赤い玉を渡された司だったが、そこでついに限界が来たのかそのまま地面に倒れ伏してしまった。
【あるじさまー!?】
『気力だけで動いていたか…。精霊たちよ、此奴の家はわかるか?』
【わかるのよ!】
『ならば案内せい。儂が運んでやろう』
そう言うとドラゴンはその姿をドラゴン本来のものにかえ、司をせに乗せると大きく空へと旅立つのであった。
深い深い闇の中にディーがドンドンと飲み込まれていく。必死に手を伸ばしているがその手はあと少しだけ届かない。
(絶対に助けるんだ! 絶対に! 俺が!)
その思いとは裏腹にディーと司の距離はドンドンと離れていった。
(ディー!)
司の声は届かない。
司の手は届かない。
司は間に合わない。
(それでも! それでも、諦めるなんてできない! だから…)
「ディーは俺が助けるんだ!」
「きゃっ!?」
叫びながら勢い良く司が体を起こすと、直ぐ傍から女性の声が聞こえてきた。司は声の主に視線を向けると、そこにはリッドが床に尻餅をついていた。
「りっど、さん?」
「ツカサさん目を覚まされたんですね!」
「え? ここ、リッドさんの家? 俺確かドラゴンと…、ドラゴン…! リッドさん!! ディーは!? ディーはどうなったんですか!?」
司はベッドから飛び降りるとリッドに詰め寄るようにして顔を近づける。すると、リッドの目から涙が溢れてくる。
「そんな…、まさか…、ディーは、ディーはし「おにーちゃんおきたのー!」…え?」
司は突然聞こえてきた声と、次に自分の体に感じた慣れ親しんだ衝撃に、思わず目を丸くした。そして、恐る恐る視線を下ろしていくと、そこには…。
「ディー、ちゃん?」
「おにいちゃん、おはよう!」
「あ、うん、おは、よう…」
司は未だよく回らない頭で、ゆっくりとディーの体に触れていく。柔らかい髪の毛、すべすべの頬、ちっちゃな手、それは間違いなく…。
「元気に、なったんだ…」
「うん! お兄ちゃんのおかげだよ!」
「そう、元気に…、なったんだ…。よかった…、よかった…」
司は大粒のナミダを流しながら、そこにディーがいるのを確かめるように優しく、それでもディーの存在がはっきりと分かるぐらいに強く抱きしめるのだった。
そして夜、ディーが眠った後司はリッドから事の次第を聞いていた。
司が気を失った後、ドラゴンがここまで司を運んできたというのだ。いきなりドラゴンが街に現れ、大騒ぎになったがドラゴンはリッドに必要なことだけを伝え直ぐに去っていったのだそうだ。
「そして、ツカサさんが持ってこられた竜の血をディーに飲ませたんです。すると、直ぐに効果が現れました。それまで苦しそうにしていたのに、穏やかになって…」
リッドはそこまで言って、その時のことを思い出したのか涙を流し始める。司はゆっくりとリッドの背を撫でながら、落ち着くのを待った。
「すいませんでしたツカサさん。娘のためとはいえ、あなたを死地に向かわせるようなことになってしまって…」
「自分がしたくてしたことですから、気にしないでください」
「…ツカサさん、少しだけ向こうを向いていただけますか?」
「? わかりました」
司はリッドがなにをしたいのかわからなかったが、言われた通りにリッドとは反対方向をむく。すると、小さく何かが床に落ちる音が小さく聞こえてきた。
「ツカサさん…、あの、こっち向いていただけますか?」
「どうしたんですかり、っどさ…」
ツカサが振り向くとそこには一糸まとわぬリッドの姿が蝋燭の火に浮かび上がっていた。
「私にはツカサさんに返すものがありません。ですので…、私をもらってくださいませんか?」
「…リッドさん、気持ちだけもらっておきます。服を着てください。でないと、その勘違いしそうになってしまいます」
司はそう言って部屋から出て行こうとするが、それをリッドが引き止める。
「勘違い…、してください」
リッドは顔を真赤に染めながら、司の手を引き寄せる。司はその手を振り払うこともできたが、司自身リッドに好意を寄せているため強く振り払う事はできなかった。
「好きです、ツカサさん」
「リッドさん」
そして、ベッドの横になるリッド、その上に体を被せながらもリッドに体重がかからないようにする。
「あの、私初めてで…きゃっ!? あ、あのそんな急に…、ツカサさん? ねてるの?」
そう、司はドラゴンとの戦い、ディーが無事だったこと、いろいろなことがあって、今まで何とか張り詰めさせていた緊張がここに来て切れてしまったのだ。
「そうですね、ツカサさん頑張ってくれましたものね。ゆっくり、休んでください」
そう言うとリッドは司のおでこに軽くキスをして、自分の胸に抱くようにして、自らも眠りにつくのであった。
翌日、女性に恥をかかせたということで、司の見事な土下座が炸裂するのは、もうすこしこの幸せな状態が続いた後の話である。
ミハイエルさんの一言
「つ、ツカサさんヘタレですし!? 女性に恥かかせたらダメですし!?」
今回の話の補完は次話で…、できたらしま…、できたらいいなぁ。
ではまた。
ドラゴン戦後
【四条 司】パラメータ
年齢 15歳
種族 ハーフエルフ
職業 戦士
ステータス
体力 4500
精神力 5000
力 C+ (物理攻撃力・物理防御力)
魔 B (魔法攻撃力・魔法防御力)
速 B- (回避)
器 C+ (命中率)
運 AAA+(?)
※ステータスの値はFが最低でAAAが最高。さらにその中で『- ブランク +』の三段階にわかれている。(例 A- A A+ の順になります)
※普通の人の平均がFで、駆け出し冒険者はD-、一流と呼ばれるにはC+以上が必要になる。
※身体強化時、運以外のステータスが3段階上昇
スキル(基本持っているだけで発動する)
必要経験値1.5倍(ステータスが上がるのに必要な経験値が1.5倍になる。しかし、上がる時の幅が大きくなるかもしれない)
スキル習得率上昇(スキルが覚えやすくなるような気がする)
剣の加護 (剣類の扱いに+補正 極大)
拳の加護 (近接格闘に+補正 極大)
風の加護 (風系の魔法に+補正 極大)
光の加護 (光系の魔法に+補正 極大)
付与の加護(付与系の魔法に+補正 極大)
力の加護 (全ての攻撃力に+補正 極大)
魔の加護 (全ての魔法の威力に+補正 極大)
必要MP10分の1 (魔法を使う時のMP10分の1になるかもしれない)
賢者 (勉強がよく出来るかもしれない。物覚えも良くなるかも)
投擲の達人 NEW (スライムさんの串刺しとか可哀想ですし!?)
いつかはいいお父さんに NEW (良い父親になれます可能性がある)
身体強化 NEW (魔力を使っての身体強化ができるかもしれない)
祝福
ミハイエルの祝福(ステータスが上がりやすくなるかもしれない)
称号 NEW
スライムハンター(スライムさんいじめすぎですし!?)
ドラゴンフレンド NEW(ドラゴンさんとお友達ですし!)