第五話 疾走奮闘無謀 (前)
誤字脱字多めにつき…、( TДT)ゴメンヨー
「どけよ!」
迷宮の森奥深く、司は両手に持ったミスリルナイフで自分に向かってくる魔獣を切り捨てていく。だが、相手を倒すだけで、討伐部位も拾わずにそのままの勢いで森の奥へと駆け抜けていく。
「てめぇらの相手してる暇ないんだよ!」
この世界で司を知っているものならばその言葉使いに違和感を覚えるほどの口調で叫び、その表情はいつになく険しいものになっている。
「オーバーレイ!」
そして、一匹ずつ倒すことに苛立った司は広範囲の光魔法を使い周囲にいる魔獣を一気に殲滅した。
「待ってろよディー」
事の起こりは司の部屋にリッドが駆け込んできたことから始まる。その日はいつもよりのんびりと狩りの準備をしていたのだが、そこに血相を変えたリッドがやってきた。
「つ、ツカサさん! ディーが…、ディーが!!」
「どうしたんですかリッドさん? 落ち着いてください」
「でもディーが…、このままじゃディーが死んでしまうんです!?」
「なっ!?」
リッドの言葉に司も一瞬慌てそうになるが、ここで二人が慌ててもどうにかなるものではないと気づき、司はリッドから詳しいことを聞くことにした。
そして、リッドから説明されたことは司にとって衝撃的なものだった。
「その病気が治らなければ、ディーちゃんは死ぬんですか?」
「…はい。この病気になって生き残ったエルフを私は知りません…」
「…治すためには、ドラゴンの血が必要なんですね?」
「…はい。でも、ドラゴンの血は他に入れようと思えば安くても5000万Eは必要になります」
「なら、自分がとってきます…」
「!? そ「行かせてくださいリッドさん…、必ず帰ってきますから、お願いします!」…頼んでいいんですか?」
「はい…」
「ディーを…、助けてください…」
リッドのその言葉に司は無言で頷くと狩りの準備を大急ぎで済まし、ハンターギルドに向かった。ハンターギルドについた司は、ギルドマスターに事情を説明し近場でドラゴンがいる場所がないかを問い詰める。
「…死ぬぞお主?」
「だから見捨てろと? あの小さな命を?」
「お主まで死んだらどうするのじゃ?」
「自分はあの子を見捨ててまで長く生きたいとは思いません」
「…迷宮の森の最奥におる」
ギルドマスターは司の想いに負けドラゴンの居場所を教えた。それを聞いて司は小さく息を呑んでしまう。まさか、自分がほぼ毎日通っていた初心者用の迷宮にいるとは思いもしなかったのだろう。
実は迷宮の森にドラゴンがいるというのは一部の間では有名な話だった。だが、迷宮の森に生息しているドラゴンは、ドラゴン種の中でも最強と呼ばれるエンシェントドラゴンで、高い知能、強靭な肉体、あらゆる魔法を使いこなす最強の生物だ。
間違っても人間が単独で勝てる生物ではないのだが、迷宮の森にいるエンシェントドラゴンは比較的人間に友好的で、自分から人を襲うこともなく、逆に街の危機には何度も助けてくれたことがあるほどだ。
「…!? 教えていただきありがとうございます。!失礼しました!!」
司が出て行った部屋に残されたギルドマスターは小さく息を吐いて小さく首を振る。司に教えた場所にいるドラゴンは、比較的気性のおとなしいドラゴンで、問答無用で襲い掛かってくることはないだろうと考える。
それでも、いつものように落ち着きが無い司が無茶をしなければいいがと、そこだけが心配の種だ。
「待ってろよディー」
第五話
疾走奮闘無謀 (前)
「くそっ!? どこだ? 何処にいるんだ!」
司が迷宮の森に入ってから一時間ほどが経過していた。出てくるモンスターが弱いとはいえ、今司がいるのは迷宮の森のかなり奥の場所だ。
「! もしかしてあそこか!?」
司のいるところから少し離れた場所に、少しだけ開けた空間が見える。
「頼むいてくれ…!」
『ほう…、騒がしいと思ったら人間か。ここ最近は久しくみなんだが、なに用じゃ』
そして、その場所にドラゴンは、いた。
真っ白な鱗に身を包み、その大きさは三〇メートルはゆうに超えているだろう。自分のテリトリーに入ってきた人間を、ドラゴンは珍しいものを見るような感じで見下ろしてきた。
その瞳は全てを見透かすように司は思えた。事実、このドラゴンの瞳には相手のステータスをある程度見ることができるようになっている。
「…っ、頼みます! あなたの血を少しだけいただけないでしょうか!?」
『ふむ、実にわかりやすい用じゃな。そして、儂からの答えは否じゃ』
「頼みます! 女の子の…、小さな女の子の命がかかっているんです!」
司は深く頭を下げドラゴンに頼み込む。司が頭を下げたまま少しの時間が流れ、ゆっくりとドラゴンは口を開いた。
『言葉に嘘は無さそうじゃが、儂がお主の頼み事を聞く必要はあるのか?』
「…ありません」
『ふむ、それでもお主は儂に血を出せというのか?』
「…はい」
『そうか、ならばその力を儂に見せてみろ。お主自身の力で儂から奪ってみよ』
ドラゴンはそう言うと一瞬周囲を激しい光が覆い、その光が晴れた時、その場にいたのは白い鱗をまとった一人の壮年の男性だった。
「!?」
『さぁ、時間がないのだろう?』
一瞬なにが起こったのかわからなかった司だが、自分に向けられた声を聞き、眼の前にいる人物が先ほどのドラゴンだと確信する。
だが、大きさが人間大になったからと言って弱くなったとは司には思えなかった。
「全力で行きます!」
司にはここで問答している時間さえ惜しかった。いままさに病気と闘っているディーのためにも、ディーの回復を待っているリッドのためにも、司は戦う道を選ぶのだった。
今回ディーがかかった病気はエルフ族独特のものであり、体内の魔力の暴走が原因である。発症率は限りなく低いものの、反面発症するとまず助かる見込みのない病気と言われている。
治す方法は高位の存在から生命力を分けてもらうこと、そう血をのむことだけだった .
「はぁっ!」
『ほう、なかなかにやりおる』
司は初撃から全力で打ち込んでいく。相手から感じられる力は強大で逆立ちしても叶うものではないことは司自身が一番理解している。
しかし、理解することと諦めることは同じではないと、今も苦しんでいるディーのために司は攻撃を開始した。
「…!」
『人間にしては良い動きをする。だが、それでは届かぬよ』
司の連続攻撃を片手で軽くあしらいながらドラゴンはなんでもないようにそう司に話しかける。
「…っ!」
力の差があるとは思っていたが、自分の攻撃が一切通じていないことに司は下唇を噛み締めながらも、攻撃を次々に繰り出していく。
少しでも強く、少しでも速く、少しでも自分の拳が届くように。
『ん?』
司が攻撃を始めてから少したった頃、司の攻撃が変わり始めたことにドラゴンは気がついた。今までよりもりも少しずつ速く、少しずつ重く、攻撃が変化してきている。
『この短時間でステータスが上がってきているのか?』
ドラゴンはそう考えると同時にその考えを否定する。そんなことはないだろうと。
「………」
『ん? なにを呟いておる?』
攻撃を仕掛ける司が小さく何かをつぶやいていることに気が付き、ドラゴンは攻撃を捌きながらそのつぶやきを聞き取ろうとする。
「もっと強く…、もっと速く…」
この時司の頭にあったのは、いかに速く攻撃をし、いかに攻撃を強くするかだけだった。自分がここで時間をかけるだけディーが苦しむのだと何度も心のなかで反芻し、一撃一撃に思いを込め繰り出していく。
ただ、ひとつのかけがえのない命を守るために。
こんなかんじです。
ではまた。