第四話 日常休日日常
誤字脱字…、確認してもかならずあるのは何故だろう?
…投稿します。
今、司の目の前にはリッドの家の床が写っている。
別に体調が悪くて倒れているわけではなく、日本人にとって最上級の謝罪の形、そう土下座をしているからである。
「…」
そんな、土下座選手権があれば間違いなく優勝するであろう見事な土下座を決めている司の前には、寝間着を着て頬を赤く染めたリッドが椅子に座っていた。
「…」
そして、土下座をしている司の背中には、亀の子のようにディーが乗っかっている。
「お兄ちゃんのせなかひろいー!」
ディー一人だけが楽しそうにしている中、先の口を開いたのはリッドだった。
「あの、私の不注意ですから、少し恥ずかしかっただけで…、あの、怒ってませんから」
何とかそう口に出したリッドだったが、その時のことを思い出したのか、先ほどよりも顔を赤く染め言葉尻もだんだんと小さくなっていく。
「ですが…」
リッドの言葉を聞いて一瞬顔を上げた司だったが、そこでリッドと目が合うと先ほどのことが鮮明に司の脳裏に思い出される。
話は数時間前に戻ることになる。
迷宮の森から戻った司は、オーガを倒して街に戻りそのことをギルドに報告した。するとそのままギルドの一番偉い人に呼び出されて、様々なことを聞かれるのだった。
何処であったのか、どうやって倒したのか、本当にお前が倒したのか等などだ。そのことに対し、司はオークが二匹現れたことは正直に話、オーガと五匹のオークに事に対しては、適当にごまかして説明した。
そうして、同じ事を何時間にもわたって質問され続けた司は、いつもより遅くリッド達の待っている家に帰ってきたのだが、鍵を開けて家に入りとりあえず今日の疲れを落とそうと風呂場に向かったのだ。
そう、本来ならこの時間にこの家のお風呂を使う人物はおらず、リッドとディーはいつももっと早い時間にお風呂は済ませているのだ。
「え?」
なのだが、脱衣場の入口を開けた司の目に飛び込んできたのは、お風呂上がりなのかリッドに体を拭かれているディーと、お風呂上がりのディーの体を拭いているリッドの姿だった。
そう、それも体にバスタオルを巻き付けているだけの姿の、だ。
「え」
司が小さく漏らした声を聞いたリッドはそのままの姿勢で首だけ司の方に振り向き、そこに司がいるのがわかるとあわてたようにその場に立ち上がったのだ。
「お兄ちゃんおかえりなさい!」
リッドが振り向いたときに、同じようにディーも振り向き司が帰ってきたことに気がついた。そして、裸のまま司の方に向かって走り出し…。
「「え?」」
その時にリッドの巻いているタオルに体が引っかかり、軽く引っ張るような感じになってしまったのだ。もともと、そんなに強く巻いていなかったこともあり、ディーが軽く引っ張っただけで簡単にタオルは解けてしまい、司の目に一糸まとわぬリッドの姿が飛び込んできた。
「…!?」
いつもは纏めてある髪は解いてあり金の天鵞絨のように美しく、白く艶やかな肌はお風呂上がりのためかほんのりと赤く染まっておりシミ一つ、黒子一つ無いように見えた。
胸は平均よりも少し小さいように思えたが、それはリッドのスタイルに見事にあっており、それはそう黄金比と言っても間違いないだろう。そう、一つ一つのパーツが見事に完成されていた。
司とて前の世界で55年生きた経験があり、それなりにというか人並み以上に女性経験はある。それでも、リッドの裸体は今までにない程に美しく見えた。
「!? す、すいません!?」
少しの間二人の間の時間が止まり、先に動き出したのは司だった。司は足下にバスタオルを持って立っているディーをわしゃわしゃと拭いてから、慌てたように脱衣場から逃げていった。
その場に残されたリッドは驚きに目を丸くしながらも、律儀に風邪をひかないようにとディーを拭いてからこの場を立ち去った司の姿に顔を赤くしながら小さく笑うのだった。
そして、脱衣場から出たリッドを待っていたのは、見事な土下座を決める司の姿だったのだ。
司は先ほどの出来事と、リッドの裸体を思い出し顔を赤くさせる。それを見てリッドも更に顔を赤くし、二人の間に気まずい沈黙が流れた。
「おかーさんもお兄ちゃんもどうしたの? お熱あるの?」
「え? あ、いや違うんだよディーちゃん」
「そ、そうよ。ちょっと困ったことがあっただけだから。そうですよね? ツカサさん」
土下座した司と、椅子に座ったリッドの間で不思議そうにディーがそう聞いてきた。無邪気なディーの質問に、二人はしどろもどろになりながらもそう言い、それをきっかけに先ほどまでの気まずい雰囲気が和らいだ。
「そういえば、ツカサさん夕食は食べられたんですか?」
「あ、まだなんです」
「そうですか、では少し待っていてください用意しますから」
リッドはそう言って台所に入り、その後ろ姿を見送った司は抱きついてきたディーと遊ぶことにした。
リッドは夕食を作りながら、ディーと遊ぶ司を見る。先程の出来事はとても恥ずかしかった、生まれたままの姿を見られたのだから恥ずかしくないはずがない。
それでも考える、もし他の人に見られたとしたらどうしただろうか、と? 多分だが、恥ずかしさもあるがそれ以上に怒っていたように思った。相手が司だから、あれほど恥ずかしかったのだ。
「ほーら!」
「たかーい! お兄ちゃんもっとー!」
リビングから二人の楽しそうな声が聞こえてくる。初めてあってから2ヶ月、ディーはすっかり司になついていた。
それこそ本当の親子のように仲がいい。
「ふふっ」
そんな二人の姿お眺めるのが好きなリッドは、今日も司のために腕によりをかけて美味しい料理をつくるのであった。
第四話
日常休日日常
翌日、司は朝一番にハンターギルドにやってきていた。昨日倒したオークとオーガから剥ぎ取った部位のお金を受け取るためだ。
依頼として出されていたものではないため、部位を換金した分だけとなるが、オーガはランクも高いためそれなりの金額になったのだ。
「ラニーさんおはようございます」
「おはようございますツカサさん。昨日は大変でしたね。まさか森のあんな浅い所でオーガと出くわすなんて」
「ほんとにですよ」
ツカサとラニーは朝の挨拶がてら話を始める。他愛のないようなことだが、ギルドの受付をしているだけあって、ラニーは様々なことを知っていた。
「それで、今日は調査のため迷宮の森は立入禁止なんです」
「ありゃ、それは困りましたね。うーん…、どうしようかな」
今日もグリーンスライムを狩ろうと考えていた司は完全にあてが外れていた。しかし、逆に考えると別の場所に行くきっかけにもなることに気が付き、司は手頃な依頼がないか捜すことにした。
「こうしてみると色いろあるなぁ」
オーク、ゴブリン、コボルト、など依頼のランクの低いものや、オーガ、サイクロプス、グリフォンなどの高位の依頼もある。
「ん、これって」
司は目に入ってきた依頼をもう一度確認する。そこに書かれていたのは『レッドスライム大量発生、討伐求む』というものだった。
「ラニーさんこれって」
「ああ、その依頼ですか? 街の西側にある『炎の洞窟』の中に大漁のレッドスライムが湧いたらしいんです。あの洞窟は鉱石が取れるぐらいで他にはめぼしいものがないので、ほとんど破棄されているようなものなんですけど、たまたま初心者パーティが中に入ってみるとすごい数のスライムがいたそうなんです」
「そうなんですか。レッドスライムの核ってなにかにつかえるんですか?」
グリーンスライムの核はポーション作りに使えるのであれば、レッドスライムも何かに使えるのではないかと司は思ったのだが、ラニーからは予想外の返事が帰ってきた。
「使えませんよ。と言うよりもですね、レッドスライムは極希にしか核を落としませんし、落としたとしても状態の良くないものなのであまり研究されてないんですよね」
「へぇ。強いんですか?」
「いえいえ、グリーンスライムよりも弱いです。問題なのは数と儲けが少ないことですね」
少し悩んだあと、司はこの依頼を受けて見ることにした。理由は簡単、ただスライムに会いたくなっただけである。
「お気をつけて」
「行ってきます」
ラニーに挨拶をして司は炎の洞窟へと向かった。炎の洞窟はちょうど迷宮の森の反対側の方角にあり、名前からして分かる通り、炎属性の敵が多く生息している。
「ここが炎の洞窟か」
司は洞窟の入口で装備を確認する。今日は皮の鎧にミスリルナイフ2本という、いつものグリーンスライム討伐時の格好である。
レッドスライムはグリーンスライムより弱く、大きく違う点といえば炎に少しだけ耐性があるということだ。
「レッドスライムのくせに炎も一応効くんだよね-。それじゃがんばりますか」
司は両手に持ったミスリルナイフに力を込めると神聖魔法の一つである『ライト』を使い、明かりを確保する。
司は明かりを頼りに奥へと進んでいくと、程なくしてレッドスライムが現れた。
わしゃわしゃと。
「なんというか…、ある意味すごい光景だな」
洞窟一杯にレッドスライムが湧いていた。一瞬その真中にダイブしたい衝動に駆られた司だったが、なんとかそれを抑えこみレッドスライムを倒していくことにした。
「それにしても、なんでこんなにレッドスライムが湧いてるんだろ?」
昨日の事があるため、なんとなく嫌な感じを受ける司だったが、周囲から嫌な感じは受けないためレッドスライム狩りを続行する。
司はレッドスライムを倒したあとに落とす討伐部位の『赤い玉』を拾いながら考える。この赤い玉はなにに使えるのか解っておらず、レッドスライムを討伐した証明にしかならないと言われている。
「ん? あれなんか大きくなってないか?」
司から離れた所で一回り大きいスライムが何匹かおり、それがだんだんと重なっていき、その都度スライムは大きさを増していく。
「す…、すげぇ」
そして、往年の名作に出てくる王様みたいなスライムが司の前に誕生した。ぱっと見、大きいだけのスライムに見えるが、これだけ分厚ければナイフを全力で投げても刺さらないだろうと司は考える。
「魔法、つかって倒すか」
魔法、元の世界ではなかった技術。司は二種類の属性の魔法を使うことができる、風と光だ。
どちらの属性も使い勝手がよく、司本人との相性もいいのか使用するには全く問題がなかった。
「ライトジャベリン」
司は手のひらに光を集めそれを細長い形に変えていく。光の下位魔法であるライトジャベリンは司が好んでで使う魔法の一つであり、その形状と大きさを変えれば様々な状況に対応することができる魔法だ。
「突き…、刺され!」
司は全力でライトジャベリンに向かって投擲する。司が投擲したライトジャベリンは狙い違わず、スライムの核めがけて一直線に飛んでいき、司の狙った場所に見事突き刺さった。
「って、止まってるのか!?」
だが、ライトジャベリンはスライムの膜に邪魔をされ書くまで届かなかった。
「さすがというか、なんというか、。でも、いつまでもここにいるわけにも行かないしな。これで終わらせるよ」
司は片手だけにミスリルナイフを持ち、ミスリルナイフに光魔法を纏わせ、少ししてミスリルナイフのは先から光の刃が伸びはじめた。
「切り裂け、レーザーソード」
ミスリルナイフから伸びた刀身は何の抵抗もなくスライムに突き刺さり、そして何の抵抗もなくスライムを切り裂いたのだった。
「スライムって奥が深いな。もうすこし狩ったらギルドに報告しておくか」
それにしても、と司は考える。2日連続で情報にない魔獣と遭遇すると言うのはどういうことなのだろうかと。
「まっ、今考えても仕方ない事だな」
巨大レッドスライムを倒した後に落ちていた今までのレッドスライムのものよりも大きい紅い核を拾い、その後数十匹のレッドスライムを倒してから司は街へと戻っていった。
「ラニーさん戻りました」
「あら、今日はいつもより早いんですね」
「はい、今日も少し報告がありまして」
司は今日あったことをラニーに説明すると、ラニーは困ったような表情をした後、深く司に向かって頭を下げるのだった。
「すいませんツカサさん! 2日も続けてこのようなことになるとは!」
「あ、いや、まぁ、何とかなったので構いませんよ。それに過ぎたことは気にしないでください、自分は怪我もしてませんし」
「でも!?」
「じゃ、次からはしっかりとお願いしますね?」
「はい!」
報告が一段落した後、司はラニーにあの大きなスライムについて聞いてみた。すると、あれはレッドビッグスライムというスライムであり、ある一定以上のスライムが一定の空間に発生すると、スライムたちが急に合体を始めあの姿になるということなのだ。
強さ自身はランク3相当なのでそんなに怖い魔獣というわけではないのだが、倒しにくいことからハンターには嫌われている魔獣である。
「それでは、大きな核は明日までに鑑定しておきます」
「おねがいします。それではまた」
そう言って司はギルドから出て行った。ちなみにいつも司はラニーと話をしているが他にもギルドの受付嬢は沢山いて、少なくとも5人は常駐している。
ギルドから出た司はいつもより時間が早いので、市場の方に行って見ることんした。昨日のことでリッドにお詫びの品でも贈ろうかと考えたのだ。
「ん? あれはリッドさんとディーちゃん?」
「あ、おにいちゃんだ!」
司とディーはほぼ同時にお互いを見つけ、ディーは一目散に司の所に駆け寄りその勢いのまま抱きついてきた。
「おっと」
司は抱きついてきたディーを受けとめそのまま抱き上げた。
「あらあら、ディーったらツカサさんも疲れてらっしゃるのに」
「気にしないでください。こうやって抱き上げるの好きなんで」
「ディーもだっこされるのすきー」
「もう、この子ったら…」
「買い物の途中ですか?」
「はい。といってももう帰るところですけど」
「そうですか、じゃ自分も一緒に戻りますよ」
「え? でもなにか探しに来られたんじゃ?」
「あ、そうだった…」
司は自分がここになにをしにきたのか思い出し、恥ずかしさを隠すように鼻の頭を掻き、リッドはそんな司を見て小さく笑っている。
「なにを探しに来られたんですか?」
「えっと…、あ! リッドさんこちらに来てもらえませんか?」
「え、ええ」
リッドが連れて来られたのは、流行りの服屋アクセサリーが売られている露天だった。
「この中で女性に送る物としてなら、リッドさんならどれを選びますか?」
「え? 女性、にですか?」
「はい。恥ずかしながら自分にはそういうセンスが無いみたいで…。あ、金額は気にしなくていいので」
司が女性にと言った時点で、少しだけリッドの声のトーンが下がったようになったが、リッドは司がなにのためにそれを使うかは分からないが、真剣に選び始める。
「これ、ですね」
そうして、リッドが選んだのはミスリル銀で出来たネックレスだった。そのネックレスはミスリル銀で出来ている割には安く、天使が祈りを捧げている姿が彫られたものだった。
「これですね」
「はい」
「おっちゃん、これお願いね。あ、袋はいらないから。木の入れ物だけちょうだい」
司は賞品と木の箱だけを受け取ると、不意にディーを下に降ろすと、いきなりリッドに正面から抱きつくように首に手をまわした。
「え!? あのツカサさん?」
「うん、よく似合います」
「え、あの、プレゼントっていうのは…」
「はい。自分からリッドさんに日頃の感謝をこめてです。よし、ディーちゃんはなにか欲しいかい?」
司はそう言うともう一度ディーを抱き上げ、自分と同じ目線のディ-にそう尋ねる。本人はバレていないつもりだが、耳まで真っ赤になっているので照れ隠しなのがバレバレである。
「んーと! んーと! バハナのみ!」
「よし! それじゃ買いに行こうか!」
「うん!」
「リッドさんも行きましょう」
「え? あ…、そうですね」
司に促されリッドもその場から動き始める。
「あ、荷物持ちますよ」
「いえ、これぐらい軽いですから。それよりも、申し訳ないのですがいつもより人が多いので、逸れないように腕お借りしても宜しいですか?」
「え? ああ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
リッドはそう言うと、司がディーを抱っこしている側に行き、控えめに司の肘のあたりに手を添えた。
「それじゃ、行きましょう」
司はリッドが逸れないために手を添えたのだと考えているが、少しだけ回りを見回せばあることに気がついただろう。
自分達と同じような格好で歩いているのは、夫婦か恋人たちだけだということに。
夕日のなか三人の影は長く伸び、一つに溶け合うようになっていた。
ミハイエルさんの一言
「ら、ラッキースケベなんて破廉恥ですし!? 司さんてば見損ないましたし!?」
ではまた。