第二話 小生下宿中
第二話です。
よろしくです。
「ほい、これで終わりと」
司は手に持っているミスリルナイフを、少し離れたところにいるスライムめがけて投げつけ、それは見事スライムに突き刺さり、あっさりと核を貫き地面へと刺さるのだった。
核を貫かれたスライムは光の粒子となって消え、後には小さな丸い玉だけが残されていた。
司はそれを拾い上げ自分も袋の中へ入れると、この後の予定を考える。
「これで30匹か、もうすこし狩って帰るかな?」
司はそう言いながら周囲を見回すと、そこら辺にスライムがいるのがわかる。但しスライムのいる数に比べ、この辺にいるのは司ただ一人のようだった。
「まぁ、物理攻撃が効かないんじゃなぁ」
そう、実はスライムには物理攻撃が効かないのだった。この辺りにいるのはまだレベルの低いグリーンスライムで完全に無効化されるわけではないのだが、それでも駆け出しの冒険者にとっては倒しにくいことに変わりはない。
逆に魔法にはめっぽう弱いのだが、魔法使いなどはソロではなく、大概はPTを組んでいるためスライムを相手にするよりも実入りの良い相手を選ぶことのほうが多い。
もっとも、司にとってはステータスを上げるのにはもってこいのため人が少ないというのはありがたいのだが。
司がこの世界に来てからはや二ヶ月が過ぎていた。
今現在司は様々なギルドがある中で、ハンターギルドというギルドに所属している。ハンターギルドはその名の通り、魔獣を狩ることによって報酬を得ることを選んだ人達が集まる組織である。
所属した者は1から10までのランクで管理され、1が最低で10が最高となる。数が上に行けば受けられる依頼も報酬の大きなものになるのだが、その分難易度も跳ね上がっていく。
司にとっては自分を鍛えることもでき、比較的速く収入が得られ、さらにはハンターギルドはその数も多くほとんどの街にあるので、ハンターギルドのカードを持っていれば、身分証にもなるのだ。
「よし、今日は一日スライム狩っておくか」
今現在の司のランクは2である。
第二話
小生下宿中
「はい、それではスライムの核100匹分確かに受け取りました。こちらが報酬の1000Eになります」
「確かに」
司はハンターギルドの受付嬢である、ラニーからスライムの核の買取金額である1000Eを受け取り財布の中へと入れる。
この世界の単価はEとDが使われており、1000Dで1Eとなる。この世界の月の生活費が二人家族で10000Eなので、今日の司の稼ぎは一日としてはかなりいいほうだ。
「それにしてもスライムってほんとに人気無いんですね」
「そうですね。ツカサさんのようにたくさん狩って来られる方は少ないですね。まぁ、物理攻撃も効きにくいですし、魔法を使って倒そうとしても数は限られますからね。それに、ツカサさんのようなミスリル銀製の武器を持ってられる方は、もっと高額な依頼を受けられますから」
「まぁ、俺としては独り占めできていいんですけどね」
その後ラニーと少し話をしたツカサはハンターギルドを後にして自分の家へと戻っていく。
但し家といっても下宿先になるのだが、実はツカサは今現在この街でパン屋をしている家の二階に下宿させてもらっている。
今ツカサがいるのはこの大陸第四の都市『アンデレ』で、この都市は人口規模こそ4番目だが近くには低難易度から高難易度の狩場があり、さらには迷宮も近場に幾つか確認され、かなり活発に人の行き来がなされている都市だ。
ツカサがこの世界にやってきた時、このアンデレの街の少し離れ場所だった。与えられた知識を元にこの街までやってきたツカサだったが、この街にきて直ぐに涙ぐみ今にも泣きそうな表情をしている4歳くらいのエルフだと思われる小さな女の子を見つけ、なんとなくほっておくわけにも行かず話しかけてみると、女の子は拙いながらも事情を話してくれた。
女の子の話を要約すると、母親に買い物を頼まれたのだが、露天に売っていた自分の好きな食べ物の誘惑に負けてしまいつい買い物のお金を使ってしまい買い物ができなくなってしまい、途方に暮れていたのだそうだ。
「そっか、実はお兄ちゃんこの街に始めてきたんだ。良かったらこの街案内してくれないかい?」
女の子は最初不安そうな顔でじっとツカサの顔を見ていたが、少ししてためらいがちに首を縦に振った。
「そっか、お兄ちゃんはツカサっていうんだ」
「ツカサお兄ちゃん…。ディーはねディーっていうの」
「そっか、ディーちゃんか、いい名前だね」
ツカサに名前を褒められ、ディーという名の少女は少しだけ笑顔を浮かべる。それからツカサはおもむろに少女を抱き上げ、近くにある先ほど少女が買っていた食べ物を一つ買って少女に持たせた。
「それじゃ、ディーちゃんの買い物先に行こっか?」
「うん!」
それから少女の道案内通りに進み、二人は順調に買い物を済ませていった。途中少女の話を聞いてみるとどうやら少女も最近この街にやってきて、あまり知り合いがいないらしいということがわかった。
「あ、あそこ! あそこがディーのおうちだよ!」
そして買い物を済ませた二人は、ディーの家だというパン屋に帰ってきた。ツカサは右手でディーを抱っこし、左手に買い物の荷物を持ち、ディーはツカサの首に手を巻きつけている。
「あ! おかーさんだ」
家の前に近づくと、ツカサの目に一人の女性の姿が目に入った。その女性はディーの声が聞こえたのか、一目散にこちらへと走ってきた。
「ディー!?」
「おかーさん!」
ツカサがディーを地面に下ろすとディーは近寄ってきた母親に抱きついた。
「もう! いつまでも帰ってこないから心配したのよ!?」
「すいません。自分が無理言って少し街を案内してもらったんです。ディーちゃん今日はありがとね」
ツカサは母親に荷物を渡し、ポンポンとディーの頭を軽く撫でてこの場を去ろうとした。だが、その時足元に小さな衝撃を受け振り返ってみるとそこには自分の足に抱きついてきたディーの姿が目に入った。
「おかあさんあのね?」
ツカサの脚に抱きついたまま、ディーは今日あったことを素直に母親に話し始める。最初、ディーがなぜこんなにもツカサに懐いているのか疑問に思っていた母親も、ディーの話を聞くうちにそのことを納得するのだった。
「ありがとうございました。ディーが大変お世話になったようで」
「そんなことありませんよ。自分のほうこそ、あなたの心配も考えずディーちゃんを連れ回してしまって申し訳ありませんでした」
互いにそんな感じで謝りあいをしていると、話はツカサがこの街に初めて来て、この後宿を探さなければならないという話になった。
「まぁ、ならうちには部屋が沢山有りますから、どうぞお使いください」
「え? いや、さすがにそれは不味いんじゃないですか? 俺みたいな素性なわからないようなやつを不用心に止めたりしたらダメですよ。それに旦那さんに聞かず勝手に決めたりしたら」
「ふふっ、大丈夫ですよ。この家にいるのは私とこの子だけですし、旦那はもういませんから。それに私もこの子も人を見る目だけはあるつもりですから」
そう言われツカサは困ってしまう。ツカサにしてみれば悪いことはひとつもない話であり、さらには下からすごく期待した目でディーに見られていることも断りづらさに拍車をかけている。
そして、ディーの母親はかなりの美人であり、そんな美人な女性に小首をかしげられてお願いをされては結局断ることなどできないのであった。
「…お言葉に甘えさせて頂きます」
「はい! 喜んで」
「よろこんでー!」
「あら、そういえば私ったら名前も言わずに! 私はディーの母親でリッドと申します」
「自分は四条司と言います」
こうして、この日ツカサはリッドの家にお世話になり、翌日あれよあれよという間にこの家に居候することが決まってしまうのだった。
後にツカサがどうして自分をこの家に泊まらせようなんて考えたのかを聞くと、リッドは小さく笑いながらツカサに説明した。
精霊にこれだけ懐かれている人が悪い人なはずがない、と。
もっとも、そういわれてもツカサ自身はよくわからなかったようだが。
ではまた。