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十六夜の降りた蒼は、闇を睨みつけて真正面に立った。闇はひるんで形を変えながら言った。

《お前は・・・またその宿主を殺すつもりか!》

十六夜は呟いた。

『痛ぇ・・・。』そして足を、体を見回して、『痛ぇじゃねぇか。あちこちこんなにボロボロにしやがって』そして月を仰いだ。『お前だけは絶対に許さねぇ!』

月から、一直線に大きな光が蒼に向かって降りた。激しい光は一帯を明るく照らす。これは十六夜の最大限の力、美月の里も全てを明るく照らす大きな力だ。その力を身に受けて、蒼は燃え上がるように光輝いた。

十六夜は思った。ツクヨミの時と明らかに違う。人の体を操るのに慣れていたこともあるが、蒼自体の力の吸収率が全く違う。まるで自分の体から直に力を放出するような自由を感じた。

おそらく、消せる。

十六夜は直感して持てる全ての力を闇に向けて放った。


闇に光が接触した瞬間、まるで爆発したかのような閃光が走った。闇がまるで焼き切られているかのように接触している端から霧散し、消滅して行く。

《うぉぉぉやめろぉぉぉ!光め!そうはさせん!》

闇は身をよじって維月や双子の方へ闇の玉を放った。十六夜がしまった!とそちらを振り返ると、そこには小さな半球の光の結界が出来ている。結界は闇を弾き飛ばした。

ー有だ。なぜそこに居るかはわからないが、有が三人を守ってそこに居た。

気を失った恒と遙の手は、まだしっかりと握られていた。有は遙の空いたもう片手を握り締め、自分に出せる最大限の力で結界を張り、双子から強化の力をもらっていた。

『よくやった、有』

十六夜は闇の苦し紛れな攻撃を光で完全に抑え、放たれる黒い玉はことごとく消滅させた。

もはや本体の回りを覆っていた黒い霧はどこにも存在しなかった。中心部の深い闇は、光に削られて半分の大きさにまでなっている。

闇はのたうち、その場から逃れようと飛び上がった。

『逃がしはしねぇ!』

十六夜は一気に光の放流で闇を巻き込んで捉えた。闇は悲鳴を上げて形を変え、どんどんと霧散して消滅して行く。

《光・・・やめ・・ろ・・・!》闇はもはや消滅寸前だった。《闇がなければ・・光も・・・存在・・しなくなる・・・ぞ》

十六夜は一瞬ためらった。

『オレは光そのものな訳じゃねぇ!』

《知らない・・のか・・・自分の目覚めた・・訳を》

『なに?!』

闇はフッと笑ったようだった。

《・・・それも、いいだろう。さらばだ・・・。》

闇は完全に消滅した。

同時に光も消え、辺りはシンッと静まり返った。


蒼は膝をついて倒れた。ぜいぜいと肩で息をしている。瞳は、元の深い茶色に戻っていた。浄化が終わった瞬間、十六夜は月に戻されたのだ。

《蒼!》十六夜は呼びかけた。《蒼・・・わかるか?》

蒼は口を開くのも億劫だった。しかし答えた。

「十六夜・・・やったじゃないか。オレ、死なないよ。」

生気は減っているが、命を落すほどではない。十六夜はホッとした。もしこれが人のエネルギー体の時なら、涙が出たかもしれない。

ふと、たくさんの人の気配がわらわらとこちらに向かってくるのが感じられる。有が村人達に話しているのが見えた。

遠く維月達も担架で運ばれて行くのが見えた。こちらに一人がやって来た。

「蒼さん、これから私達が連れて帰りますんで。」

蒼はうなづいたが、それが誰なのか見当も付かなかった。有が黙って見ているから、きっと大丈夫だ。もう疲れて、なんでもよかった。

担架に乗せられて運ばれながら、蒼は十六夜を見ていた。こんなにホッとした形で月を見るのはいつ以来だろう。

「十六夜。」

蒼は言った。

《なんだ?》

十六夜も穏やかに答える。

「腹が減った」

プッと十六夜は吹き出した。

《さすがにあれだけ戦えばな。》

蒼はまた言った。

「なあ、十六夜」目は月をしっかりと見ている。「ありがとう」

十六夜は間をおいて、答えた。

《ああ。オレの方こそ》

蒼は目をつぶって、眠りに落ちた。



目を覚ますと、日は高かった。

自身に点滴の針が刺さっているのを見た蒼は、また素人の有が刺したのかと少し怖くなった。起き上がって回りを見る。いつもの座敷に、維月や涼が同じように寝かされていた。白衣を着た看護婦らしき人が、蒼に気付いてこちらへやって来た。

「痛むでしょう?まだ寝ていた方がいいわ。」

蒼はためらった。「えーと、オレ・・・。」

有が襖を開けて入って来た。

「あら、気がついたのね。」

そして傍らの別の女性に言った。「食事の用意をお願いします。」

女性は頭を下げて去った。看護師の女性も気をきかせて出て行った。有はそれを見送ってから、蒼の横に座った。

「よかった。あなた昨日は一日中目を覚まさなかったのよ。」

蒼はびっくりした。

「もう、次の次の日?」

有は頷く。「ええ。」

いくらなんでもこんなに寝たのは初めてだ。ものすごく腹が減っている。

さっきの女性が、お昼ご飯を盆にのせて運んで来てくれた。蒼は有り難くがっついた。

うまい。飯がこんなにうまいなんて。蒼は涙ぐんだ。

「あんた何泣いてんの?」

「飯がうますぎて。」

瞬く間に無くなる食べ物に呆れながら、有はお代わりを頼んでやった。

「母さんと涼は、かなり衰弱してはいるけど、今のところ命に別状ないのですって。」

有は、蒼が一息付くのを見て言った。

「家にたくさん人が居るけど…」

蒼はお茶を飲みながら言う。あんな大事になって、その後どうなったんだろう。

「あれは村の氏子さん達よ。」有は答えた。「あなたは聞いてなかったわね。あの日のことを話すわ。」

有は座り直して蒼に向き合った。

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