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闇の復活

闇は、不敵に笑いながら蒼を見た。

『はじめましてというべきかな?』まるでパーティーにでも来たような物言いだ。『光の継承者、お前の光を見た時には、さすがのオレも肝が縮まったよ。』

蒼は叫んだ。

「お前が裕馬をそそのかしたのか!」

闇はクククッと笑った。

『そそのかした?私が?』闇は大袈裟に驚いたふりをして見せた。『オレはコイツに力を貸してやっていただけだ。代わりに体を借りていた。コイツからは今の世のことを学んだ。』

闇はまるで穏やかな夜に散歩にでも出たという風情で、ブラブラと大岩の前を歩いた。

『お前には手こずらされたよ。コイツの中にはお前への忠誠心とかいうものがあって、それをなだめたりすかしたり、子守りは大変だった。感謝してもらいたいぐらいだ。』

蒼は激しい怒りが腹の底から沸き上がって来るのを感じた。それを知ってか知らずか、闇は大岩を撫でながら続けた。

『コイツはよくやってくれた。だが、いつも詰めが甘い。』闇はわざと顔をしかめた。『お前のことも、殺そうと思えばいつでも殺せたはずだ。』そして、森の向こうを差し、『この力をくれたあの女も、殺せと命じたのに殺さなかった。もっとも、オレが余計に力をいただいたせいで、虫の息だろうがな』

蒼は突然浄化の光を闇に向けて放った。維月も少し後ろでそれを受けて同じ力で闇に攻撃する。そのずっと後ろには、恒と遙が、強化のためのパワーを送っていた。闇はすぐに手を上げて、それを黒い深い闇の盾で阻止する。

『同じ手は食わん!』

そう叫ぶと、片手で光を出して、大岩に触れた。

同じ力に呼応するかのように、古い縄が光輝き、その縄が網目のように張り巡らされているのが見て取れた。

大岩の向こうで、闇の本体が低く唸り声を上げている。

何がなんでも闇の復活は阻止しなければ!でも、裕馬ごと封じてしまったらどうなるのだろう・・・蒼は不安になった。しかし、闇が復活すれば、人の増えた現代の、日常に浮遊するあの黒い霧が全て闇に吸収され、それを闇がより強化して放出し・・・そこには、狂気、憎悪、絶望、悲哀といったものに支配される、人の姿しか見えない。

蒼は迷いを振り払い、大きな力を十六夜から引き出し、封印の形に変えて送り込んだ。

それに気付いた維月も、同じ力に変えて援護する。この前闇の一部を消した時より、より大きな力で攻撃しているのがわかった。闇は片手を岩に、片手を光の力の防御に使って耐えている。蒼は封印の為、大きな球体を作った。

闇の取り憑いた裕馬は息をついた。明らかに光は闇の盾を圧倒しつつある。蒼の封印の球体は、大きな口を開けて闇を飲み込もうとした。

もう一息だと蒼が力を込めようとした時、闇は叫んだ。

『オレの勝ちだ、光の継承者!』

その瞬間、光の縄は光を失ってパラパラと地面へ落ちた。大岩がぐらりと揺れる。

維月は走って蒼に飛びかかり、横へ押し倒してゴロゴロと転がった。離れた位置にいた恒と遙も後ろへ走ったのが見える。大岩が、山肌から離れて、落下した。

大きな地響きと共に大岩はその力を失って転がり、その後には、洞窟が口を開けていた。

中からは風が激しく吹き出して来ていた。今まで見たこともないような、深い闇の霧が激しい勢いでその風に乗って辺り一帯に拡散して行く。

《闇が出て来る》

十六夜が無表情な声で言った。きっとまたツクヨミを思い出したのだろう。蒼は奥に、大きな闇を感じた。こちらに向かって、ゆっくりと移動している。慌てて恒と遙を振り返って叫んだ。

「お前達は逃げろ!お前達の守りは役に立たないぞ!」

二人は攻撃の力は持たない。彼らにあるのは、強化の力と、補充の力、それに、守りの力だけだった。二人は顔を見合わせてかぶりを振った。

「ここに居る!」

蒼は憤った。

「オレにはお前達を守りきる事が出来ないかもしれないんだ!」

蒼が叫ぶと、十六夜の声が言った。

《蒼、もう遅い。逃げ切れないぞ。》

蒼は急いで走って行って恒と遙を、木々の影へ連れて行った。

「ここに居ろ。闇に気取られないように光は限界まで抑えてろ。」

二人は頷いた。蒼が維月の元へ戻ろうとする。すると遙が蒼に何か投げて寄越した。

「蒼、これ!」

「なんだ?」

それを見ると、”お腹が空いたらスティックチョコバー♪一本で満腹!カロリー満タン補充!”と書いてあった。

「私、補給部隊だから」

遙は小さな声で言った。蒼は笑って包みを開いてかじりながら走り出した。でも、不思議とまだ空腹の兆しはなかった。付けたぜい肉のせいかもしれない。

蒼は維月の所に戻ると、身を伏せて風をよけながら闇の様子を伺った。洞窟の入口で付近では、闇の取り憑いた裕馬が、狂喜して闇の登場を待っている。

「・・ものすごい念を感じるわ・・・。」

母が横で同じく身を伏せながら呟く。

《維月》十六夜が暗い声で言った。《お前の力では無理だ。闇はまずお前、次に蒼と狙うだろう。》

母は頷く。

「わかってるわ。少しでも時間を稼げれば、蒼が隙をつく事が出来るはず。」

《最初の一撃をかわせればな》十六夜は答えた。《広範囲の強い力が来る。それに一度でも当たれば、お前は一溜りもねぇ。大きさがわかるか?今までとは比べ物にならねえんだぞ。》

「防ぐことも出来ないのか?」

蒼が聞いた。

《お前沙依の所で、あの闇のほんの一部の力を、涼と維月が二人掛かりで必死だったの覚えてるだろうが。せめて防ぐ可能性があるのは、お前だけだ。》

蒼は頷いた。

「オレが行く」

維月は驚いて蒼を押さえた。

「何を言ってるの?!一人でなんて無理に決まってるでしょう!私がアイツを引きつけて、あなたがトドメを刺さないと、勝ち目はないわ!」

《お前にそんな余裕はねぇ。》

十六夜は言った。維月は月を睨みつけた。

「この子が生まれた時の約束、覚えてる?」

十六夜は絶句した。《・・・ああ。》

「私が先に行くわ!」維月は立ち上がった。「あなたは隙を狙いなさい、蒼。」

「母さん!無理だよ!」蒼は十六夜を見上げた。「十六夜、なんで黙ってんだよ!」

《・・・・。》

十六夜は答えない。

蒼が更に何か言おうと口を開くと、大岩のそばでドサッという音がした。裕馬が倒れている。裕馬から出た闇の一部は、洞窟の方へ漂って、ようやく見えてきた闇の本体へ吸収されてひとつになった。


回りの木々が一層ざわめく。

恐ろしく深い真っ黒な念の塊が、ゆっくりと洞窟の入口から姿を見せた。

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