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わかるんだ

高瀬 蒼[そう]は、いつものように家を出た。

蒼の高校は進学校でもないが、夏休みを過ぎると否応なく受験生であることを実感させられる。

今日もカバンの中には、昨日父母を巻き込んで仕上げた奨学金の申請用紙が入っている。

父の収入は決して少なくはないと母は言うが、五人兄弟姉妹の子供達を抱えきれるほどではないらしい。

そんなことは蒼にもよくわかっていたし、特に不満に思ったこともなかった。

しかし、回りの慌ただしさが最近は鼻について、それが家に居ても学校に居ても、絶えずまとわりついているようで、イライラして仕方がない。

父母や担任が言うように、進学の道は選んだが、行きたいのか行きたくないのか、自分でもわからなかった。


「蒼!」

校門をくぐると、後ろから同じクラスの山下裕馬が声を掛けて来た。細身で背は高い方だが、蒼の方がさらに高いので並ぶと小柄に見えてしまう。

「蒼、申請用紙書いて来た?オレわかんないとこあってさー」

「オレも。有[ゆう]と母さんに聞いて、やっと書けた」

「お前の姉さんも奨学金だったっけ?大家族は子供も大変だよな。」

ウンウンとわかったように頷く裕馬に返事をしようとした時、女子の声が割り込んだ。

「高瀬くん、おはよう~」

振り返ると、小柄で華奢な肩に、不似合いな大きなカバンを掛けた、山中沙依[さえ]が立っていた。

「おはよう」

蒼は形式的に答えて、裕馬を促して靴を履き替えると、振り向きもせず廊下へ向かう。

「山中、同じクラスになったことないよな?オレは小学校から一緒だけど、お前は高校まで知らなかったんじゃないのか?なんで話してるんだよ。」

小声で言う裕馬の声音には、なぜか咎めるような雰囲気がある。蒼はため息をついた。

「知らねえ。オレだって聞きたいよ。ここんとこ気がついたら居て、声掛けて来るんだよ。挨拶程度だけど。」

裕馬はニタッと笑った。

「それってさ…」

「違う」蒼は先回りしてきっぱり言った。「そんな感じじゃない。わかるだろ?あの感じは違う」

裕馬は怪訝そうに眉を寄せた。

「何がわかるんだ?」そして来た方向を振り返った。「まだこっち見てるぜ」

無視して先を急ぎながら、蒼は思った。

振り返らなくてもわかる。見てるのも、オレになんか聞きたいのも、それが恋愛絡みでないことも。

なんでわかるかなんかわからない。ただ、そうなんだから、そうなんだ。


はじめまして。慣れないので最初は短めに…。よかったらこれからも読んでくださいませ。

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