エピローグ
電車がC駅に着いた。
俺は足取りも軽く電車を降りる。
すごく良い気分だ。
何だか世界が広がった気がした。
世の中悪い人ばかりじゃないんだな。
いつもは真っ直ぐ家に帰るのだが、今夜は誰かにこの感動を伝えたい気分になり、家の近くの立飲み屋に寄った。
「とりあえずビールで」
俺は酒を注文し、すぐに飲み屋の大将に話し出した。
「実は今日さ・・・。」
俺は酒が入ると饒舌になるタイプだ。
「・・・ついてない事ばっかりだと思ってたけど、最後にこんな素晴らしい体験が出来るなんてやっぱり今日はついてるよ」
酔いも回り始めたところで俺は今日起こったことを全て話終えた。
ただ、あの穴の事だけは伏せておいて。
どうせ話しても信じてもらえないだろう。
「それは良かったねぇ。でも何でそんなに素直に謝れたんだぃ?」
大将が尋ねる。
「実はさ・・・。」
話しかけてすぐ思い直す。
あの穴の事はやっぱり自分の胸の内に秘めておこう。
他人に話すとあの不思議な体験の記憶が消えてしまうような気がしてーー。
「いや、やっぱりいいや」
大仏のおっさんの顔を思い出し俺はにやりと笑う。
酒も進み俺は自分でも何を喋ってるか分からないほど酔っ払った。
「この世界は素晴らしい!!俺はかんろうした!!」
既にろれつも回っていない。
「お客さん、飲みすぎだよ!明日も仕事なんだろ?」
大将が心配そうな顔で聞いてくる。
「そうだな、じゃあそろそろ帰るか。おあいそ!!」
俺は金を払い千鳥足で店を出た。
「気をつけて帰りなよ!」
大将が心配して見送ってくれる。
なんて良い人なんだ。
やっぱりこの世界もまだまだ捨てたもんじゃないな。
俺は更に気分が良くなり口笛まで吹き出した。
飲み屋を出て少し歩いた所で俺は急に尿意を催した。
ちょっと飲みすぎたな・・・。
近くに公衆トイレを見つけ俺は駆け込む。
しかし・・・。
「きゃーーーーー!!!!!」
突然上がった甲高い叫び声が夜の静寂を切り裂いた。
あろうことかどうやら俺は女子トイレと間違って入ってしまったらしい。
「変態!!誰か!!」
酔いのせいで揺れる視界の中で若い女性が叫んでいる。
(あぁ・・・。穴があったら入りたい・・・。)
そう思った瞬間俺の体は宙にーーーー。